山尾三省を偲ぶ

 



 

 1960年代から、山尾三省(詩人・思想実践家)は屋久島の廃村に住んで、次々と著作を世に出した。彼の本に魅せられ、吸い寄せられたぼくはそのほとんどを読んだ。彼は「部族」というコミューンづくりを描いていた。

 「全世界をおおいつくしている中央集権的な政治形態。ロシアでもアメリカでも、中国、日本でも、人々はピラミッドを形作る小石に過ぎない。ぼくらはこのような欲望のピラミッドづくりのゲームに参加することを拒否した。

 ぼくらは問いかける。なぜ人と人とが殺し合うのか。なぜ国家が存在し、戦争があるのか。

 文明もまた欲望のピラミッドであり、権力のピラミッドと密接に関係する。その国家の頂点に、核兵器が存在する。

 欲望のピラミッドである中央集権を、ぼくらは拒否する。

 ぼくらは宣言する。

 国家とはまったく異なった相を支えとした社会を形成することを。

 統治する、統治される、いかなる個人もいかなる機関も存在しない社会。土から生まれ、土と共にあり、土に帰って行く社会を。

 全世界に部族連合が結成され、人類が死に至る道ではなく、生きる道をつくるのだ。ぼくらは、世界中の人々に、部族への参加を呼び掛ける。人類は、生き残るべき道を、ひとりひとりの自己は無限の自己への道を見出すだろう。

 大地に還れ! 自己の内なる、大地の呼吸を取り戻せ!

 人は、どのような土地で、どのように死んでゆくのか。それは各々の問題である。

私の願いは、平和な土地で、平和な心を実現して死ぬことである。平和こそ、私にとって真理である。平和こそ、私の住み家である。平和のために、私のすべての行為は捧げられる。

 科学は、その本性において、普遍の合理性を結実させるものであるから、当然、地球規模で『共に生きる』ことが前提として目指されなくてはならない。その国の独善の科学があるとすれば、それはすでに『死の科学』である。原子力発電の残留物を太平洋に棄てるというような結果に終わる科学は、『死の科学』であることは言をまたない。

 今日、ほとんどの科学は、共生的ではなく独善的であり、人間のためではなく管理社会の富に役立つ方向に進んでいるとしか思えない。」

 

 山尾三省は2001年8月28日、屋久島にて胃がんのため他界した。