モーツァルトの音楽 2

 

 

    石井誠士(哲学者)の「モーツァルト 愛と創造」から。

 

    「モーツァルトは絶えず旅をし、世界に自分を投げ出し、異質なものとぶつかりあった。モーツァルトほど、いろんな作曲家から多くのことを学んだ人がいるだろうか。彼は学ぶことの天才であった。真に創造的な人というのは、徹底的に学ぶという人である。彼は生涯、学ぶことをやめなかった。

 モーツァルトは他者との出会いを求めて、世界に出ていった。異質なものとの対立拮抗に身をさらしながら、自己を発見し、自己を確立して自由になった。それは愛にほかならない。音楽とは、愛の経験なのだ。

    モーツァルトは、このような愛の方法を幼い時から体得していった。

    こうした愛は、信仰の働きである。他者と出会い、他者に自己を観る。そして自己を確立する。

    モーツァルトの音楽は、リアリズムにある。彼の音楽が世界中に愛される理由はリアリズムにある。彼の音楽の絶対的な肯定性にある。

    人間の根源的な問題に対して創造性を発揮することができなくなっている現代、もはや戦争の危険を乗り越え、環境破壊を免れようとしても、根本的に否定的な人間。モーツァルトの音楽はそれに対して徹底的な肯定性を発揮する。その根源は、愛にほかならない。愛とは、悲願である。」