隠された真実

 袴田さんの人生は、犯罪が無実であったとすれば、権力によってつくられた虚構が強制した人生である。
 拘束した初期では、捜査機関は袴田さんを何が何でも犯人に仕立てようとは考えていなかっただろう。取り調べの過程で、権力機関は保有する捜査権を踏み外して不正義の結果を導いたと思われる。いったん犯人に仕立てた以上は変えられない。警察権力の面子にかけて、それを貫徹した。しかし、最後の土壇場で裁判所は再審を認めた。
 権力者・権力組織は常に自己保全と体制維持のために秘密を保持する体質を持っている。かくして真実は隠され、闇に葬られる。
 福島原発事故の隠された真実について報じるドキュメント映像(ドイツZDF 「フクシマの嘘」)をFacebookyoutubeで観た。福島を調査し取材して映像を作成している。福島の地元に生きる人、事故を調査研究する科学者、政治家からの取材だ。これを観て、恐るべき事態が3.11後進行してきたことを思い知らされる。今も高濃度の放射能を含む汚染水が流出している。かなり遠い地域にも放射能汚染が広がっているようだ。ホームレスを集めて、除染などの労働に送り込まれている。真実は隠蔽され、原発再稼動の方向へ、国民を誘導している。
 https://www.youtube.com/watch?v=8wCehe0iaKc

 そのYouyubeにこんな場面があった。

 <元双葉町町長 井戸川克隆さん、古いサムライの家系出身だ。五百年以上この地に続いた家系である。名誉 誠実 責任感が、家訓として代々伝えられてきた。
 「子孫の私は井戸川家の墓守です。ご先祖様の墓を守り世話をする義務があります。そして次の世代に伝えなければなりません。しかしこの状態では引き継ぐ人は誰もいません。それができないなんて胸が引き裂かれる思いです。戦争、地震津波を乗り越えた井戸川家の歴史が、今 双葉で終わろうとしている。誰も原発事故の責任を取らない恥知らずばかりだ…。
 電気会社がこんなに勝手にふるまえるのは日本だけです。彼らは自分のことしか考えていません。政府はやりたい放題やらせ政治家は原発ロビーのいいなりです。それを世界中の人々に知っていただきたい」>

 <京都大学の原子炉実験所、小出裕章。40年間 原子力物理を研究している小出氏は、事故発生当時から福島の状況を見守っている。なぜ福島がコントロールされていないか彼は説明してくれた。
 「一号基から三号基の溶けた燃料がどこにあるのか誰もわかりません。けれど冷却は必要なので建て屋に送水を続けています。溶けた燃料のせいで水は汚染されます。建て屋は割れ目だらけなので地下水が流れ込みます。東電はこの水を循環させると言ってタンクに一時貯蔵しています。けれど全部の水は回収できません。原発敷地一帯が放射性の泥沼のような状態になってしまいました。周辺の観測井戸の水からは高濃度の放射能が検出されました。もちろん一部は海に流れています」
 全面水浸しのフロア、どこかこの下に溶けた燃料がある。最新ニュースによれば 観測井戸の水から500万ベクレル/リットルのストロンチウムを発見していたことを東電は半年間隠していた。今でさえ毎日200トン以上の高濃度汚染した地下水が海に流れている。さらに回収される汚染水40万リットルを毎日タンクに貯蔵しないといけない。総量は今では四億リットルを超えた。東電が経費を削減したタンクは放射能に耐えられず、始終水漏れをする。
 「政府は これまで放出された放射能は、広島原爆たった168発分だと言っています」
 「チェルノブイリの五分の一です」
 「しかし福島からは常に汚染水が海に流れています」
「私はこれまで環境に放出された放射能は、チェルノブイリと同じ量だと思います」
 「しかも福島は現在も進行中です」
 しかし何故ここまで放っておかれたのか?
 われわれは東京で馬渕澄夫を訪ねる。事故当時の大臣で事故応対担当官だった。事故発生後すぐ 東電が事故の大きさを隠ぺいしていると疑った。
 「汚染水が流出しているかと聞くと東電はしていないと答えました」
 「地下水は? と聞くと心配する必要ないと東電は答えました」
 「私は疑惑をもったので専門家に地下水の調査を命じました」
 たちまち東電の嘘は明らかになった。
 馬渕が集めた企業や科学の専門家チームは、一日に10万リットルの地下水が、原発に向って流れることを突き止めた。
 原発放射能汚染したその水が太平洋に流れる恐れがある。
 「早急に阻止しなければなりませんでした」
 「時間がない」
 「すぐに遮水壁を建設しなければ…」
 事故発生から3ヵ月後の六月十四日、馬渕氏は記者会見を行なって、計画を発表する予定だった。原発地下に粘土製の遮水壁を建設する計画だ。しかし東電が反対した。>

 これはYouTubeの記録の一部だ。ぜひ一見する必要がある。事故はますます深刻な様相を呈している。しかし、日本人の意識は次第にフクシマを薄れさせている。これはいったい何だろう。