凍み大根

 昨夜は地元地区のコーラスの、ちょっと早い忘年会だった。学校から帰ると6時前、急いで防寒着を着、使い古した皮の手袋をして、自転車で出かけた。懐中電灯の光が淡すぎた。この前、電池を交換しようと思いながら、やっていなかった。これじゃ、野道がよく見えないなあ、田んぼのなかに落ちないようにしなけりゃ、とゆっくり、白内障のたぶんすすんだ目で確かめ確かめ走っていった。
 数分で村の食堂に着く。もうみんな飲み始めていた。出席19人で、座敷はにぎやかだ。
 「駆けつけ3杯」
 巌さんがビール瓶を持ってくる。もうそんなに飲めないねえ。
酒の席の会話は勢いがよい。話もはずむ、脱線もする、ぶっちゃけた話も出る。
 おうおう、そうかい、そうかい。
 年寄りの声に張りが出る昔話は記憶も細かい。へえーい、そんな過去があったのかい。
 「ところで、今何歳ですか?」
 てっきり年下だと思っていた御夫人、
 「78歳だよ」
 これまた、えーっ。ぼくより年上ですかあ。若いねえ。
 コーラスを指導するいちばん年上の平林さん、高校時代は松本まで通った話。
 「そのころは、篠ノ井線まで歩いていって松本まで行ったんですか」
 「なに言うだ、もう大糸線が走っていましたよ」
 むしろ今より昔のほうが村に活気があったという。
 テーブルに出された大根の漬物がおいしかった。これどうやって漬けるのかなあ、今年は自分で漬けてみようかなあ。
 ぼくの畑にはまだ大根が数十本残っている。こんなうまい漬物ができるなら、漬けたいねえ。
 寒さが厳しくなってきた。大根の保存も考えないといけない。土曜日にいくらか大根漬けして、残りを保存するか。葉っぱも捨てないようにしたいものだが。
 ネットで調べてみたら、「凍み大根にしたらどうでしょうか?」というレシピが載っていた。
 <昔から伝わる冬の保存食品で、切り干し大根と似て輪切りにした大根を鍋でいったん煮てから、冬の寒さで凍らせた保存食品です。適度な寒さが必要です。大根の美味しい味が「ギュ〜」っと凝縮され美味しさはバツグンです!
 凍大根は煮物にすると普通の大根と違って一度干した大根なので濃縮された大根のウマ味が煮物全体に広がって、さらに口の中にもおいしく広がっていきます。凍豆腐と一緒に煮物にするとその味わいはさらに広がって食卓をおいしく飾ってくれます。>
 なるほど、これいいなあ、けれど「凍み大根は、極寒地方の独特な干し大根で、極寒を利用した凍結乾燥によって干し上げられます」とある。ここは極寒地方と言えるのかなあ、といささか疑問が湧いた。
 「農文協」のページに、山形市立高瀬小学校合の原分校の「凍み大根づくり」が載っていた。1年生と2年生だけの分校で、先生といっしょに分校の畑で大根を作り、厳冬期に凍み大根をつくった。
子どもの詩が載っていた。

       しみだいこん

     先生、
     しみだいこんが
     かっちんこだよ
     しみだいこんが
     つるつるだよ
     しみだいこんがつめたいよ
     しみだいこんが
     かたまっているよ

 分校の子ともたちは11人、1月に雪の中から大根を掘り起こし、皮をむいて干す。夕方から凍り始め、朝になるとかっちんこ、昼になると水がぽたぽた、それを繰り返して1ヵ月ほどでからからの凍み大根が出来上がる。うまく保存すると1年間食べられる。
 凍み大根を水に漬けてもどすと、その変化に子どもたちが驚く。黄味がかっていた大根が白くなり、太くなり、ふにゃふにゃになる。ちくわや昆布と一緒に、しょうゆで煮ると、分校中に大根の匂いが広がる。子どもたちは、おいしいおいしいと食べる。
 こんな分校、いいなあ、なつかしいなあ。凍み大根作ってみるかなあ。