ドクダミ、スベリヒユ、ヨモギ

 「私の野菜畑を見においで」、
 彼らがつくっている野菜が大きくなっているようだ。これからやるべきことは、トマトだったら脇芽を摘むという作業がある。支柱を立てる作業もある。これは見本を見るのがいちばんだ。
 そう言って、我が家までの地図を黒板に書いた。
 「ここがスーパーです。ここに大きな工場があります」
 「ペットボトル」
 「そうです。ペットボトルの飲み物をつくっています」
 「隣にも大きな工場があります。ここで中国へ帰った王さんが働いていました」
 トー君がうなずく。
 「工場の間に道があります。この道をこっちへ行きます。左に曲がります。川があります。渡ります。ここに火の見やぐらがあります」
 「ひのみやぐら、何ですか」
 そこで、消防のこと、火事のこと、火の見やぐらというものを説明する。
 こうして、我が家の位置を伝えた。
 「仕事が夕方6時までに終わったら、来なさい」
というわけで、月曜日の夕方、彼らは来るかなと庭仕事をしながら待っていた。
 午後6時前、道路から聞き覚えのある声がした。
 「センセイ」
 「よう、来たかい」
 自転車に乗ったふたり、ハップ君とトー君が、うれしそうな顔をしてこちらを見ている。地図の学習は成功したなあ。
 「ルアン君はどうした?」
 途中で自転車が壊れて、それで押して帰った、二人は説明する。それは残念。
 まずは工房に入る。そこには昨日摘んだばかりのドクダミがアルミサッシの網戸の上に干してある。
 トー君、
 「これ食べられる」
 何何?
 「ベトナム、これ食べます。名前、何と言いますか」
 「ドクダミと言います」
 「これ、ベトナム、ご飯と一緒に食べます」
 「へえー、生で? 日本ではこれをお茶にします」
 ハップ君は、葉っぱをちぎって口に入れた。初めは苦いけれど、だんだん食べるうちになれてくる。頭の痛いときとか、お腹がよくないときに、食べるという。
 トウモロコシの畝に、スベリヒユがたくさん生えていた。それを引っこ抜いていると、
 「これも食べます」
と、また二人は言う。
 「えーっ、これも?」
 おどろき、もものき、さんしょのき。
 トー君は、ヨモギを見つけた。
 「これ、卵焼くとき、入れます」
 「日本では、ヨモギ餅、つくります」
 餅つきの説明をしたが不十分だった。
 それから畑の作物を見ながら、順に説明をしていった。トマトの芽かき、支柱の立て方、ネット張り、野菜の名前などを畝ごとに話していくと、彼らは畑の精になったように畑になじんで、顔も体も生き生きと楽しんでいるのが感じられた。やっぱり農村青年だ。
 最後にお土産用に、「ウマイナ」「春菊」「ピーマン」「シシトウ」「大根」「シャンサイ」を取って自転車に載せた。ハップ君は庭のドクダミの葉を10枚ほど摘んだ。今晩の料理に入れるつもりのようだった。
彼らはうれしそうに帰っていった。
 晩御飯のとき、家内がドクダミの葉を摘んできて、数枚食卓に置いた。食べてみると、なるほどそれほど苦くはない。ご飯と一緒なら食べられる。
 スベリヒユを調べた。いやあ、知らなかった。日本でも薬用健康食品に入っていたのだ。こんな記述があった。
 <山形県では「ひょう」と呼び、茹でて芥子醤油で食べる一種の山菜として扱われており、干して保存食にもされた。沖縄県では「ニンブトゥカー(念仏鉦)」と呼ばれ、葉物野菜の不足する夏季に重宝される。トルコやギリシャでは生または炒めてサラダにする。民間薬として解熱、解毒、虫毒に利用される。>


PS
 「安曇野ひかりプロジェクト」にカンパしてくださった「ぐりんてぃ」様、確かに受け取りました。本当に貴重なご寄付に深く感謝しております。
福井さん、多額のカンパ、申し訳なく思っています。ありがとうございました。
 福島の親子保養ステイの資金に活用させていただきます。助かります。