野菜のバトンタッチ



秋が急速に深まり、ここ数日朝霧が田野を覆う。
夜明けの気温が0度以下になり、雪かと見まがうほどの霜が降りている。
夏から秋にかけてたくさんの贈り物をしてくれた野菜たちは、もうここで終わりですと、
数日前まで緑の葉を茂らせていたのに、静かに枯れて大地に返っていった。
シシトウ、トマト、ピーマン、インゲンは最後のお土産をたくさん置いていってくれた。
ヤーコン、サトイモは、これから芋を掘りあげるときだ。
ハーブのバジルも葉っぱはしおれて黒く垂れ下がっている。


野菜たちのバトンタッチ。
夏野菜と交代して、冬野菜が畑の主人公になった。
キャベツ、白菜、ほうれん草、小松菜、野沢菜、ネギ、大根、人参、
彼らは、外気が氷点下になっても、しゃきっと元気だ。
日にちの差をつけて種まきする小松菜の一番最後に播いた種が芽を出している。
越冬して春に収穫するキャベツの幼苗も霜の中で元気だ。
来年春に実をつけるイチゴの苗も先日定植した。


裏の畑でタマネギを植えていた、コーラスの会の部長をやっているテイコさんが、畔を下りてやってきて、
「タマネギの苗が余りましたので、いくらか要りませんか。」
これは、これは、ありがたいことで、いくらかいただければ、
「じゃあ、これだけどうぞ、百本はあるでしょう。」
箱から両手でひとつかみ取り出した苗は大きくよく育っている。
「りっぱな苗ですねえ。タマネギは苗で決まるといいますねえ。」
「はい、そうですよ、苗半作と言います。」
「私の播いた苗は、まだこれぐらいでね。」
親指と人差し指を開いて見せた。
「去年のも、そうでしたねえ。タマネギの苗を育てるのは難しいですよ。」
去年のぼくのちょろちょろ小さなタマネギをちゃんと見ておられた。
早速、まだ畑に残っていたナスを引っこ抜いて、実をもぎ取り、
完熟鶏糞堆肥、苦土石灰、油粕などを入れて耕し、畝を立てた。
キノコの菌床、木材チップ、枯れ草などで埋めてきた畝間の下から有機質たっぷりの土を鍬ですくい上げて、畝の上に盛り上げる。
そこにタマネギ苗を植えた。
土づくりをして寝かせる暇のない時は、この二重構造の土にする。
土の上の層は完熟した有機質の土、下の層は新たに肥料を入れた未熟な土、
二重構造だから苗は傷まない。
たちまち出来た新畝に、もらった苗を定植した。
これで見事に苗は生きて育つだろう。


モミガラをもらいに行こう。
アキヒサさんの農園へ大きな肥料袋十数枚を車に積んで、
「モミガラください。」
アキヒサさんは会議に出かけていないと息子の嫁さん、
「今年もモミガラ10袋ほどいただければと。」
「どうぞ、どうぞ、持っていってください。」
モミガラやらソバガラやら、道ばたに山のように積み上げてある。
さらさら崩れ落ちてくるモミガラをスコップですくって、大袋に詰めた。
持って帰ってタマネギの苗間にモミガラヲ敷き詰める。
寒さがもっと厳しくなれば、霜柱が土を持ち上げる。
モミガラはしみを防ぐためのふとんになる。
北風で飛ばされるかもしれないから、その押さえも必要だ。
そうだ、インゲンの蔓を小さく切ってモミガラの上に乗せていこう。


草たちもバトンタッチした。
夏草が去り、冬草が元気に生きる。
百草(ももくさ)千草(ちぐさ)万草(よろずぐさ)、
彼らはそれぞれ、千変万化の気象環境、多種多様な土壌環境に合わせ、
絶え間なくバトンタッチして大地を覆い、地球を護る。
勝手な人間にとって有難くも迷惑な草たちがいて、大地が守られている。