帯津医師の話 「心」

太極拳の会で、分杭峠へ行ってゼロ磁場の「気」を体験してきたYさんに帯津医師の話をしたら、その人の本を持っているよ、と言う。
早速借りて読んでみた。
本の名は、
「新しいガン治療  もうひとつの地平を見つめて」(帯津良一・王振国共著 K&Bパブリシャーズ)


先日、末期ガンという通告を受けて自宅療養をしているSさんのお見舞いに行ってきた。
これまで抗癌剤の治療を受けて、一時劇的な効果をあげてはいたが、
最近とみに体力が落ちてきている。
今は食欲もなく、酸素呼吸器を口から放すことができない。
東京へ帰りたい、ここ信州の冬の寒さと標高の高さから来る気圧の低さが身体にこたえる、
生まれ育った東京へ帰りたい、
Sさんはそう言った。
なんとかならないか、一緒にお見舞いにいったYさんとぼくら夫婦は心を痛めている。


帯津医師がすすめている治療は、「からだ、こころ、いのち」を分けないで、まるごと診て、
自然の治癒力を高め、命のエネルギーを高めていくというものだった。
したがって、西洋医学中国医学を統合し、さらに未知の分野からチャレンジしていく治療を試みておられる。
イギリスで行なわれている自然治癒力を高める「スピリチャル・ヒーリング」の研修も受けられた。
漢方薬、食事療法、心理療法、気功、太極拳、その他、実にさまざまな分野からのアプローチだ。
このような「人間まるごと」を診る医学を、ホリスティック医学と呼んでいる。


心の持ち方が病気に影響すると言われている。
「明るく前向き」の心境をもつこと。
言うは易く、行うは難し。
ページを読み進めていって、こんな文章に出会った。


 「私が心の問題が大事だと気づいたのは、病院で気功を行ないはじめて、皆さんの顔を毎朝見るようになってからです。そうすると人の心の中が多少なりとも見えてくるのです。やけに今日は明るいな、今日はどうしてこんなに暗いのだろうとか、それが病状に大いに影響していることがわかったのです。明るく前向きな人は病状が良いようでした。
 そこで、明るく前向きな状態を作るための心理療法のチームを作りました。ところが結果として、『明るく前向き』といわれる人ほど、実は弱いところがあるということがわかってきたのです。病状がわるくなったと告げるだけで、明るく前向きな人は落ち込むのです。極端なことをいえば、『人間は明るく前向きにできていないのだ』と思うようになりました。
 ですから、明るく前向きな人を見ると、何となく弱く見えてくるのです。本当は弱いから、明るく前向きに生きようとしているのです。
 では本来、人間とはどういう生きものなのかといいますと、人間とは寂しくて悲しいものだと思うのです。若いうちはなかなかわからないのですが、私くらいの歳になると、だんだんわかってきます。
 例えば、シナリオ作家の山田太一さんの『生きるかなしみ』という本を読むと、『生きている、そのこと自体が悲しいのだ』と言っておられます。『悲しみなんて、どうということはないのだ』と、あっさり書いておられます。生きる悲しみなんて、何も特別なことではない。生きていること自体が悲しみなのだと言っているのです。
 作家の水上勉さんが、『我々は孤独な旅人だから寂しいのだ』と書いておられる通りで、私は『人間は虚空から虚空への旅人』だから悲しいのだと思うようになったのです。私も悲しく寂しいのです。
 ですから、私は患者さんにも言います。みんな寂しくて悲しい。だから寂しくても悲しくても落ち込むことはないのですよと。寂しさと悲しさの大地にしっかり立っていればいい。それより下に落ちるはずがない。こんなにしっかりした大地はありません。そこから湧き上がる『希望とか生きがい』という大木を作っていけばいいのです。
 生きがいや希望は、何も大げさなものでなくていい。いろいろな希望がありますが、とにかく堅実に実現できそうな希望を、一つや二つ持っていればいいと思います。
 明日は少し良くなる。何かが良くなる。少し食欲が出る――こうしたことでもいいのです。一日ごとの希望を育てていく。そして維持していく。そうした希望がかなえられると心がときめくわけです。それがこれからのガン治療には大事なポイントだと思います。」


読んでいて、なるほど、そう思えば気も楽になるなと思った。
Sさんに伝えようと思う。
東京へ帰りたい、その希望を実現に向けて進めていきましょうよ。