野沢菜漬け

畑の野沢菜


      初めて漬けた野沢菜


かあちゃんは〜、野沢菜漬ける〜。とうちゃんは〜、重石を載せる〜。」
初めて野沢菜を漬けた。
かあちゃんが、地元の生産物を売る物産センターで、野沢菜を10キロ買ってきて、
漬ける容器もそれ用のを買ってきて、
ぼくは重さ20キロはある石を持ってきた。


信州と言えば、野沢菜漬け。
独身時代も、子どもができて家族でスキーなどに出かけたときも、
民宿に泊まると、まず野沢菜漬けがどんと皿に盛られ、お茶が出た。


かあちゃんが初めて野沢菜を物産センターに買いに行ったとき、
「去年引越しをしてきて、今年初めて漬けるんです。」
と言ったら、軽トラックで野沢菜を運んできた農家のおじさん、
「それはいいことだ、それはいいことだ。」
洋子はそこで、おじさんに漬け方を訊いてみた。
「漬け方ねえ、塩を少し入れて‥‥、ああ、あそこにいるあのおばさんは先生だから、訊くといいだ。」
そこで、60代風の店のおばさんに訊いてみた。
「塩は3パーセントぐらいにしておいて、昆布や煮干や唐辛子を入れて、
初めは重石を重くしておいて、
そうだな、あんたが乗ったらいいよ。
水が上がるようになったら私も載っていたよ。はっはっは。」


野沢菜という菜っ葉は、どでかい菜っ葉で、
それをざぶざぶ冷たい水で洗って、漬物容器に入れ、
昆布、煮干、唐辛子を加え、
抑えの板に重石の石を置いた。
20キロの石は、かあちゃんには持てない。
この夏から秋に、庭の敷石や、花壇の土止めにする石をたくさん集めてきて庭に使った。
このあたりは烏川の扇状地で、開拓のときに石がごろごろ出たところ、
畑から出た石があちこちに放置してある。
その一つの大石が重石になった。


「一週間ぐらいで水が上がると言ってたけど、なかなか上がらないよ」
と、かあちゃんが言う。
どうしてだろうね。
そうこうしていたら、ある早朝、望君がやってきて、
「我が家でとれた野沢菜です。」
と言って、どすんと置いていった。
じゃあ、もう一桶漬けることにしよう、
と、二つ目を漬けた。
上がらないと言っていた水は、2週間ぐらいで上がってきた。
今、ときどき容器から出して、食べている。
しゃきしゃきと、おいしい。
正月ごろがいちばんおいしくなるだろう。