苗作りと適期の大切さ



今日、野沢菜の種をまいた。
霜が降りるようになる頃、野沢菜は1メートル近くまで生長し、それを刈り取って樽に漬け込む。
野沢菜の漬物は信州の冬の暮らしに欠かせない。
漬ける時にリンゴを入れたりして、それぞれの家庭の特色のあるおいしい味になる。
昔、毎冬スキーに来て泊まる民宿では、野沢菜の漬物を山のように皿に盛って出してくれた。


野沢菜を蒔いた畑はヒデさんから貸してもらっている田んぼの一角、隣にサツマイモを植えてある。
サツマイモ苗を植えたのが遅く、どこを探しても苗を販売していなかったが一軒だけ置いている店がありそれを植えた。生長の最初の段階でたっぷりと雨を吸ってくれていたら蔓を伸ばしただろうに、その後の炎暑に水不足になり、蔓があまり伸びなかった。
そのせいか、野沢菜の種まきをしたあと、ためしに掘ってみた二株は、イモは小振りで4個しか入っていなかった。
幸いネズミの被害はまだない。だがいずれネズミはやってくるだろう。去年ヒデさんのサツマイモは、畑に遅くまで収穫されないで残っていたが、ネズミにひどくやられてしまったということだった。
家の物置に保管してあるジャガイモのひとつがネズミにかじられていた。いよいよお出ましかと、コンテナにイモを移し、ネズミが入らないように木の板でふたを作ってかぶせた。これでネズ公は入れない。その代わり、小さいイモをダンボールに残し、それはネズミさん用に置いておいた。


大根の種から双葉の芽が出てきた。
今年こそはと、土作りをしっかりして播いたタマネギの芽も一斉に出てきて、ヒョロリとかわいい。
タマネギは、いい苗にしないとなかなか大きなのが入らない。今年は気を入れたから、生育が良い。
1センチほどの葉の先端に、種の殻を被っているのもある。
白菜、キャベツ、小松菜、ニンジンは順調に生育して大きくなっている。
ほうれん草は、まだ芽を出さない。


イチゴは、来年用の苗採りに失敗した。
6月頃から蔓を伸ばして、太郎、次郎、三郎と順に蔓に子どもの苗をつくって土に根を下ろしていくとき、苗作りをしなかった。
そうしたらイチゴの親株も子株も、この夏の炎暑に焼かれ、枯死寸前まで追い込んでしまった。
途中から生き返りを図ろうといろいろやってみて、いま青息吐息の子株を50株ほど育てている。
発育のいい苗にならなかったら、稔りは失敗になるだろう。
来年、イチゴを食べられるかな。
作物は適期を逃すと、影響が大きい。


夏野菜はまだ、シシトウ、ピーマン、インゲン、ゴーヤ、トマト、ナスが採れている。
トマトはもう衰退期に入って、これから寒くなるからいちばん早く終わりが近づくだろう。
サトイモは干天時にせっせと水遣りをしたから、ぼくの胸ぐらいの高さまで伸びて大きな葉を広げている。
この種芋は、去年の芋の残り、種になりそうにもないのを植えたものだが、よくここまで生長したものだ。霜が来るまでに収穫することになるが、どれだけ入っているだろうか。
カボチャは20数個、収穫できた。
生ゴミを埋めたところから出てきた芽を定植したものだが、世話もろくにしなかったが、ひとりでよく実を結んでくれた。
これも土が成熟しているところのがよくできた。


果物では、今年まだ樹が小さいが、ナツメが23個実をつけた。
ナツメの粥ができるかな。
この苗木は、店の片隅で枯れかかったように捨て置かれていた貧弱なものだったが、生きて育って今ではぼくの背丈を超えた。
ザクロは実を数えていないが、いい色になったのがたくさん見える。
ご近所のイワオさんの柿の木に、今年もたくさん実がなっている。
去年、イワオさんが採りにおいでと、言ってくれて、いっぱいもらってきて干し柿にした。
それはそれはうまい干し柿で、そんじょそこらの和菓子や洋菓子なんか、足下にも及ばない。


工房の土間にコンクリートをうつことにした。
土間をかさ上げするので、イワオさんに石ころがほしいと言うと、イワオさんの畑から掘り出した石ころの、小山のように積み上げてあるのを軽トラダンプで運んでくれた。
イワオさんは、「砂もある」、という。
コテやコンクリートを練る道具も一緒に、砂を軽トラで持ってきてくれた。
「今年は、柿いっぱいなってるで、1本まるごと実をとっていいよ。」
いやいやあ、うれしいですなあ。
今年もとびきりの干し柿ができる。
柿はいいなあ。
以前住んでいた奈良の御所でも、おいしい柿を食べた。あれは富有柿だったか。熟柿がうまかった。
柿はすばらしい果物だ。その思いは、この干し柿との出会いでいっそう深くなった。