万葉の歌人


      大伴旅人の歌


大伴旅人という、思いがけない名前に遭遇して、いささか驚いた。
中国の大学で、YUKIちゃんは日本語を教えている。
4年前は学生だった彼女が、今は日本語の先生であるにしても、
日本人でもなじみの少ない大伴旅人を、中国人である彼女が好きだというコメントに、
大伴旅人のどこに惹かれたのだろうかと、興味が湧く。
大伴旅人は、奈良時代の人、万葉集に歌が載っている。
九州・太宰府の長官になって赴任している間に、愛する奥さんが亡くなった。
酒の好きな人で、酒をほめたたえる歌をいくつも作っている。
万葉集の編纂にかかわった大伴家持は、旅人の子どもである。


  生ける者 つひにも死ぬるものにあらば
  この世なる間は 楽しくあらな
 
 <生きている者は、最後には必ず死ぬものですから、
せめてこの世に生きている間は、楽しく暮らしたいものですよ。>


  この世にし 楽しくあらば 来む世には 
虫にも鳥にも 吾はなりなむ

 <この世で楽しく生きていることができたなら あの世では 虫にでも鳥にでもなりますよ。>


この歌は、酒をほめる歌の一つで、楽しく生きるための条件である酒さえありゃ、あの世で何になろうがかまわない、ということです。

亡くなった奥さんを偲ぶ歌もつくっている。


妹として二人作りし 吾がしまは
  木高く繁く なりにけるかも

 <妻と二人で作った庭は、こんなに木も高く伸び、葉も茂っていることですよ。>


  人もなき むなしき家は 
草枕 旅にまさりて 苦しかりけり

 <妻のいない、からっぽの家は、旅にまさって、苦しいものですよ。>


  吾妹子(わぎもこ)が 植ゑし梅の樹
  見るごとに 心むせつつ 涙し流る

 <亡くなった妻が植えた梅の木を見るたびに、胸がいっぱいになり、
心がむせかえって、涙が止まらなくなります。>


  験(しるし)なき物を思はずは
  一杯の濁れる酒を 飲むべくあるらし

 <いくら考えてもどうしようもないことを、くよくよ考えたりしないで、
むしろ一杯の濁り酒を飲んだほうがいいですよ。>


確かに大伴旅人、味のある人です。
この味に気づいたYUKIちゃん、たいしたものです。