田んぼの稲の、水から何センチか上のところ、
なにやらピンク色の塊が見えた。
最初は何かの花かと思い、ありゃ何だと観察するほどに、
親指ほどの大きさのピンクの塊は、
楕円の球を半分に割ったような形をしていて、
田んぼのあぜに作られた石やコンクリートの側壁にも、あぜの草にも付着している。
腰をかがめてよく見ると、それは直径2ミリほどの粒粒の集まりだった。
何かの卵のようだ。
棒切れで押してみると簡単につぶれ、液汁が出た。
やはり卵だ。
とすると、何の卵だろう。
それから毎日観察していると、その数は次第に増えている。
田んぼの水の中には、そのような多くの卵を生む動物は見当たらない。
近くの川を見ると、田んぼに水を引き入れるために増水した水面の、
その上に生えた草にも、川岸の側壁にも、卵が生みつけられている。
いよいよ謎は深まった。
卵を草の茎にくっつけたまま、職場に持っていって、
訊いてみた。
そうしたら一人の女性教師が、タニシではないかという。
彼女は、携帯電話でインターネットに接続して、
おみごと、その正体、ジャンボタニシを説明する場面を発見してくれた。
淡水巻貝スクミリンゴガイという。
田んぼに、発生しているらしい。
いったいどんな生態なんだろう。
夕方一枚の田んぼの中で、作業している女性がいた。
ジャンボタニシがいますか?
いますよ、
おばさんはバケツの中にタニシを取って入れていた。
ほれ、その稲の株が細くなっているでしょう、
それと葉っぱがすけたり、枯れたりしているのがあるでしょう、
これこれ、
これは、ジャンボタニシの被害です。
十年ほど前から田んぼに侵入してきているようですよ。
水の外に出てきて卵を産みます。
このあたりでは、川上の地域から勢力を拡大してきたみたいです。
食用に輸入したらしいですが、
臭いので、広がらなかったんですね。
サギがこれを食べますね。
昔から日本の田んぼでとれたタニシとは異なる。
子供の時代は、秋の取り入れの済んだ田んぼで、タニシを取った。
それはおいしい蛋白源になった。
濃尾平野のその地域の田んぼの中を見ると、
昔の日本の田んぼにいたタニシよりも大きなのが、
点々と水の中に見える。
淡水巻貝スクミリンゴガイは南米原産で、
1980年代前半に、アルゼンチンから食用として持ち込まれた。
野生化した貝が生育初期の稲を加害し、九州など暖かい地方の水田で被害が生じている。
1983年 、農林水産省がジャンボタニシを有害動物に指定した。
広東住血線虫という熱帯地方に多く見られる寄生虫が、
沖縄のスクミリンゴガイからみつかり(1986)、大きな問題になったことがあるという。
熱帯性の動物なので、寒さには弱く越冬中に多くの貝が死亡、
だが、冬でも水のある大きな用水路などで越冬し、
生活排水が流れ込むような暖かい水中では、ほとんどが生存するという。
産卵は日没後、水面からのぼって行われる。
またしても新たな外来種が勢力を伸ばしていることが分かった。