『子どもの遊び』研究 ③

       三、模倣から創造へ



アメリカの子どもがイチロー選手のまねをする。
イチローをあこがれる子どもは、自分もそのフォームをやってみたい。
バットを持った腕を、投手の方に差し出し、バットを垂直に立てる。
やってみれば、自分もかっこいい選手になったみたいだ。
草野球で、ヒットが打てるかもしないぞ。
子どもは夢を見る。


好きな歌手のまねをする子どもは、
発声から振りまでそっくりにしようと、
歌手を観察して歌う。
自分も歌手になれるかな。
子どもは夢を見る。


部活動の、あこがれの先輩、
先輩は強い、先輩は上手だ、
あの先輩のように私もなりたい。
なれるかな。


憧れが、練習への意欲を喚起する。
「真似」のエネルギーは、真似をしたい欲求によって生まれる。
この欲求が、「観察」という行為を呼び寄せる。


地域に子どもの群れがあった時代は、遊び仲間の地域の兄ちゃん、姉ちゃんの影響が大きかった。
ぼくが子どもの頃、
お盆の前後、夜になると河内平野には、盆踊りの河内音頭があちこちから聞こえてきた。
やぐらを組み、音頭取りがやぐらの上で歌う河内音頭に合わせて、
浴衣姿の子どもや大人たちの踊りの輪が広がった。
小学生のとき、
「盆踊り、しよか。おれたちで盆踊りをしよう。」
遊び仲間の兄ちゃん、姉ちゃんが言い出した。
仲間は6人、家は町のはずれにあった。
ぼくらは、竹やぶから竹を切ってきて、見よう見真似で、やぐらを組み立てていった。
場所は、村はずれの三叉路のど真ん中。
盆踊りを、自分たちでやるのだ、
夢を実現していく楽しさで、心が躍った。
竹と竹とを組み合わせ、それを縄でくくる。
やってみると、竹がするする滑って、堅く結ぶのは難しい。
節のところでくくるとずれない。結ぶ方法が分かってくる。
組み立てている途中に、「待った」がかかった。
女の子の長兄が、
「道の真ん中に、そんなものを建ててはならん、やめよ」、
と言う。
計画はつぶれた。


模倣が模倣で終わる場合と、次の創造の段階に入っていく場合とがある。
子どもの遊びはまず模倣される。
最初の模倣は、形の模倣になる。
形の模倣だけではすぐ飽きる。
熱中する遊びは、次の段階に移行する。
工夫を凝らし、技術を開発し、不可能を可能にしていく練磨が加わってくる。


地域の遊び仲間で、竹トンボが、はやったことがあった。
遊んでいるうちに、そのまま上に飛ばすだけでは、おもしろくなくなってきて、
高く飛ばすよりも遠くへ飛ばすほうがおもしろい、ということが分かった。
遊びの発展、どうしたら遠くへ飛ばせるか。
子どもたちは競う。
竹トンボの羽をナイフで薄く削って、いろいろやってみる。
羽の変形と、飛ばし方によって、
次第に遠くへ飛ぶようになった。
羽を前方斜め上に向け、地面にたたきつけるように回転軸を回して押し出す。
羽は、すれすれに地表をなでるように飛んでいく。
トンボの羽は数十メートル離れた茶畑まで飛んだ。
後にそれはヘリコプターのプロペラの原理と同じだということが分かった。
こうして発見した方法で、新記録を競う。


独楽がはやった。
だれがいちばん長く回せるか。
独楽の木の部分をコンクリートでこすり、厚みを減らし、軽くし、
そこへ油をしみこませ、
回しては修正し、工夫を重ねていくと、
独楽は音も無く、一点から動かずに回りつづけるようになった。
重心がぶれない独楽をつくる。
その技に磨きがかかる。


メンコのことを大阪では「べったん」と呼んでいた。
相手のべったんをひっくり返せば勝ち、こちらのものになる。
べったんは厚紙で出来ている。
べったんが軽ければ負ける。
そこで自分のべったんが最高の武器になるように、工夫をする。
ロウソクのロウを溶かし、
そこにべったんを浸す。
ぼくのべったんは、強力なべったんになった。


野球がはやった。
しかし、道具が無い。
自分たちで作ろう。
草野球のバット、グローブ、ミット、ボールも、丸太や帆布、ぼろぎれを使って作った。
丸太を削り、手で握るところをすべすべにして、握り易くする。
ボールは、帆布をだるまの形に切って、中にぼろを詰めて糸で固く縛り、縫い合わせた。
カーブ、ドロップ、技を開発する。
自分たちの作った道具で熱中した野球の楽しさ、時間を忘れた。


こうして遊びは、次々と発展していった。
小型の弓矢を作り、矢の先に針を付け、飛ばす。
100メートルは飛んだ。
小学3年生、水泳を知らなかった。
仲間がバケツを両手に持って泳いでいる。
同じように家のバケツを持っていって、初めて泳ぎを知った。
遊びは更に発展し、生活をつくるようになっていった。
家は丘の上にあった。
坂道をコンクリートで舗装しよう。
兄と二人、土木作業員のやっているやり方を見よう見真似で、
セメントと砂を混ぜ、こてでならして、道を作った。


親しい学校の友だち、大好きな友だちの影響は最も受けやすい。
大好きだから、無意識にその友だちとよく似た行動をとっている。
性格、考え方、生活、そして心の持ち方まで、まねている。
担任の先生が好きで、その先生を慕っている子には、
先生のものの言い方、動作、考え方、癖などが、
いつのまにやらうつっていることがよくある。
好きな先生、尊敬する先生、あこがれの先生の影響は強い。
意識的に真似る場合と、無意識的に真似ている場合とがあり、
こうしてその子の中の「学び」が豊かになっていく。
やがて学びから創造へ、
個性的な自分がつくられていく。


他の人の影響を受けて、人間は育つ、
どんな影響を受けるか。
好意、友情、尊敬、思慕などの感情は、次への大きなモチベーションをもたらす。
この感情が現代やせほそっている。
子どもの周りや近くに、そういう仲間や兄や姉がいる生活、
それが子どもを育てていく。