白菜

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         白菜


神田のおばあちゃんが手招きして、
ちょっとましな柿があるんで、食べはりますか、
もう熟柿になってますけどな、
と声をかけてくれはったから、門を入ったら、
コンテナに熟柿がまだたくさんはいっていた。
柿のシーズンには、
ダンボールに一箱、二箱、
毎年神田さんの柿を買って贈り物にする。
このあたりから西吉野にかけて柿の名産地だ。
神田さんは金額を書いた札を台において、
柿一山いくらの代金を竹筒に入れてもらっていた。
もっとはよ、言うたげたらよかったんやけど、
奥さんの姿何回か見て、声かけよかと思いながら、
ようせんかったんでなあ。
まあ、持って帰って食べとくなはれ。
ぼくは二十個ほど、きれいなのを選んでもろた。
おたく、白菜つくってはりまっか。
今年は全滅しましたわ。
えらいまあ。ほんだら、これ持っていきなはれ。
神田のおばあちゃんは、少し右足が不自由だから、杖をついてはる。
奥から白菜を二つ持ってきてくれはった。
いやあ、大きな白菜ですなあ。ええんですか、こんなにいいのを。
畑に行ったらありますねん。大根はありまっか。
大根はつくってます、おおきに。
ほくほく、ぼくは柿と白菜もろて帰った。


冬はやっぱり白菜がうまい。
けれどもうちの白菜は、
ぼくが青島へ行っている間、妻が種を播いて育ててくれたが、
全部虫にやられた。
農薬を使わないから、虫はこんなうまいものはないとばかりに、
生長点を食っていった。
去年は遅くまで気温が高かった。
いつまでたっても虫の勢いは弱まらない。
小さな甲虫から、バッタ、
蛾の幼虫、蝶の幼虫、
それらがよってたかってやわらかい葉を食べつくした。
五年前、ここに住み着いたとき、白菜の種を播いたときは、
三百本の苗が出来たが、たちまち虫に食われ始め、
毎朝二時間虫を取り、
なんとか八十本ほどを守りきり、
結局葉っぱを巻いて球をつくったのはその半分だった。
それはもう、うまかった。
三年目、四年目は虫害も少なくまあまあうまく作れた。


去年の秋、同様に虫にやられて瀕死の状態だった水菜、小松菜、蕪は、
なんとか冬の寒さがやってきて持ち直し、
ほうれん草は、霜柱の立つ土のうえを這うような姿だが
葉っぱの色も深緑、寒さに耐えて味はとくだんにうまい。
けれど、冬野菜の王者、白菜は、
とうとう店で買わなくてはならなくなった。
妻が漬けてくれた白菜は、生協の市で買ってきたもの、
やっぱり白菜の漬物はうまい。