冬支度




またまた納屋のなかにネズミが侵入したらしい。
壁の波板の下をくぐるように、トンネルを掘って入りこみ、箱など地面に置いてあるものの下に巣のようなものをつくっている。
土間の床に土の山ができていて、なんだこれは、と箱などを取り除いてみると下から巣が現れる。
外に比べて気温が暖かく、食べるものもあるから、彼らよく分かっている。
それにしては、トンネルの穴が大きいのが気にかかる。
ほんとうにネズミかなあ。
モグラではないかと思ったが、2年前、コンテナに入れていたリンゴが次々かじられたとき、
ネズミの姿を確認した。
その時も地面を掘って奴さんは侵入した。
そのネズミは、どういうわけか冬を越したその夏に、納屋の棚に置いてある筒の中から白骨になって発見された。
今度のもたぶんネズミだろう。
去年もトンネルと巣があったから、とりもちのネズミ捕りを置いてみたが、かからなかった。


野沢菜が大きく育ってきた。
野沢菜漬けの季節になった。
イワオさんが入院したと聞いたのは、仕事で岐阜に行っているときだった。
心臓から出ている大動脈に裂け目ができ、大量の出血がさえぎられている状態で入院した。
その日、医師のスタッフがすべてそろっていた。
8時間の手術は成功し、奇跡的に一命をとりとめることができた。


退院して今は家で療養をしているところへ見舞いに行った。
手術の後遺症で声がかすれていた。
もう数分対処が遅れたら、命がなくなっていたかもしれないということだった。
九死に一生を得たから、これからの生き方を変えますよ、みなさんへの恩返しをしますよ、とイワオさんは言う。
「ダンプを貸しますから、使ってくださいよ。」
イワオさんは、自分の畑からゴロゴロ出てくる小石を畔に積み上げていて、
ぼくが工房の土間に入れてかさ上げしたいからほしいと言うと、それをダンプに積みこんで運んでくれた。
ぼくと同い年のイワオさんだ。そんなに力を入れたりしたのが大動脈破裂の原因になったんではないかと言ったら、笑いながら首を振った。
今年、軽トラのダンプを購入したばかりだった。
それを貸すから、自分で石を運んでは、と言ってくれたから、
じゃあ、お借りしますと応えた。
「柿、いらないかい。」
イワオさんの畑に数本の柿の樹がある。
自分の家の干し柿にするのは終わっているが、まだたくさん残っている。烏のえさにするのも惜しい、
いくらでも持って行ってもいいよ、
とのことで、お言葉に甘えていただくことにした。


洋子と二人して、柿をとった。
すこし時機が遅く、熟柿になりかけているのがいくつもあった。
イワオさんが用意してくれたはしごに乗って採っていたら、イワオさんが半纏を羽織ってでてきて、
「そこに、はしご立てて。」
ハスキー声で指図を始めた。
言うとおり、木の枝にはしごを立てかけて、はさみを使い、たくさんいただいた。


干し柿にいけそうなのを皮をむき、ひさしの下に吊るした。
今年の正月、子どもや孫たちが帰ってきたとき、
干し柿が食べられる。
散歩すると、野のあちこちに大量の柿がそのまま残されて梢を飾り、熟れている。
これらはヒヨドリや烏などの鳥たちの食料になる。


山々はもう白銀に輝いている。
タカボッチも美ヶ原も冠雪した。
山東菜、白菜、キャベツ、大根、ニンジン、ほうれん草、
冬野菜がおいしい。
やっぱり遅く種をまいたのは、なかなか生長しない。
気温が朝晩ぐんと冷えるようになった。
午後4時を過ぎると、背中がしんしんと冷える。
朝の日の出も7時近くになって、
一日の外仕事は、あっという間に過ぎてしまい、
今日は少ししかできなかったなあと思う。
サツマイモやジャガイモ、カボチャの保存はどうするかなあ、
箱にモミガラを入れ保存しようか、
アキヒサさんに電話してモミガラをもらうことにした。
大規模な農場を営んでいるアキヒサさんの農場には、山のようにモミガラが積み上げられている。
「いくらでも持って行っとくれ。」
アキヒサさんの髪も白くなった。
ピー袋に10本、もらってきた。