「家族の断絶」


    断絶

「ふーん、これが、じいとばあの生活か。」
囲炉裏端に座っているじいと、ばあを見て、
久しぶりにやってきた小学生の孫は、
部屋の入り口に突っ立って言ったという。
柱や梁、建具も黒くつややかに輝く、
薄暗いけれど長い歴史の残る家。
じいと、ばあは、驚いた。
「娘のほうの子が、そう言ったさ。
不思議なものを見たみたいに言ったんだわさ。
いやいや、もっと驚くのは、息子のほうの孫でよ。
息子が酪農はもうしないと言うからよ。
牛舎をつぶして、息子夫婦の家を建ててやったさ。
和牛は、数頭わしが世話しているだが、
それがまあ、孫は牛を見にいこうともせん。
学校から帰ってきたら、自分の家に入ったまま、
ずーっと、テレビゲームだわ。
たまにこの母屋に来ることもあるだが、
そしたら嫁がよ。
囲炉裏はあぶない、と言うて、
孫を連れ戻したんだわ。
牛に近づくこともさせん。
あぶないか、あぶなくないか、
そりゃ、自分の身体で覚えることでねえか。
体験して解ることでねえか。
孫は川にも、山にも行かん。
どうなることかねえ。」
家の前は、きれいな谷川、
裏は山。
牛は、川を渡って対岸に行き、
一日草を食んで夕方また川を渡って帰ってくる。
じいと、ばあは囲炉裏端で、
長い長い吐息をついた。