「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」


    魑魅魍魎


昔、魑魅魍魎がいた。
「一本道でんがな、
それが二本になっとるんですわ、
わしはこれは狐やと、
闇の中でマッチをすって、
タバコをつけました。
そしたらでんな、
道が一本になって、
無事帰ってこれたんですわ。」
おっちゃんは、縁側に腰掛けてキセルを出した。
真顔のおっちゃんの話を、
子どもたちも聴いていた。
大人の世界にも、
怪談が存在した。
狐が人を化かした野原は、
今は住宅街。
魑魅魍魎はいなくなった。
狐も狸も、
人を化かさなくなった。


山の学校にプールが出来て、
谷川や村の小川で泳ぐ子どもがいなくなり、
河童もどこかへ消えてしまった。
カワウソも消えた。
山村には、空き家が点々とできて、
年老いた区長さんは、
「ここは、イチ、ニ、イチ、ニ、ヤスメ、ヤスメです」
と自嘲気味に言う。
一人暮らしが「イチ」、
老夫婦二人暮らしが「ニ」、
「ヤスメ」は空き家のことだ。
そんなところにザシキワラシがいるはずがない。

この前、
新雪の果樹園で、狐を見たが、
もう神通力も失っていた。