⑧  夏休みの終わり


    夕暮れの広場


 広場はすっかり暗くなったのに、
 子どもらはまだ遊んでいる。
 かくれんぼの隠れ場は そこらじゅうにあり、
 鬼が数えている間、
 子どもらは 隠れ場所を探して 一目散に走る。
 昔 ぼくが河内の子どもだった頃 十を数えるのは、
 「ぼんさんが へをこいた」。
 早口で これを五回繰り返せば、
 五十回になった。
 中国の子どもたちも 同じように呪文めいた早口言葉で、
 十を数えている。
 小学生のお兄ちゃんは 何度も鬼になり、
 弟と妹たちを広場の隠れ場にばらまく。
 五人の小さな子どもたちは 女の子も男の子も、
 配管工事で掘り起こした 塹壕のような穴ぼこに
 身を潜ませた。
 鬼が数えている すぐそばに、
 五、六人の大人たちが 小さな床几に腰掛けて、
 あきもせず話している。
 子どもたちの全身で発する 甲高いエネルギーに満ちた声が、
 住宅街のとばりを びりびり震わせても、
 大人たちは いっこうに平気、ただ見守るだけだ。
 近くの公園のステージで歌っている歌が、
 風に乗って流れ、夜市の賑わいも聞こえてくる。
 もうとっぷり暗くなった。
 遊びつかれた子どもらは、
 大人たちの すぐ横のベンチに、
 おしくらまんじゅうのように 身をくっつけて、
 今度はおしゃべりに 夢中だ。
 夏休みも もうすぐ終わる。
 今日は子どもたちの思う存分遊ぶ日なのかしら。
 何時になったら 子どもらは 家に帰るのだろう。
 いつ 晩ご飯を食べるのだろう。
 夜九時、気がついたら、
 子どもらの声は消え、
 大人たちの姿も もうなかった。