白鳥を観に行った

 息子たちの家族はそれぞれ東京と神戸へ帰っていき、孫たちの笑い声や泣き声の響いた正月は過ぎ去った。
 長男は孫たちを連れて2日に帰っていき、次男の一家は4日に、生後5ヶ月の赤ちゃんを抱っこして列車に乗って帰っていった。

 次男家族が帰る前日、息子は鹿島槍スキー場へひとり滑りに行き、他のみんなは犀川の白鳥を見に行った。
 穂高の街から高瀬川を渡り、明科手前で犀川橋を越え、犀川の堤防を少し走ると、水鳥の楽園に至る。犀川の本流から入りこんだ河川敷に葦の密生した小島もあり、湧き水を浅くたたえた水場に、数百羽の鴨たちが群れている。
 水に浮かんだ鴨、葦の島に憩う川鵜(カワウ)、水から上がって土の上をよちよち散歩する鴨、鴨たちは全く人を警戒せず、近寄っても少し身をよけるぐらいで、もしトウモロコシか小麦の粒を手のひらに乗せれば、寄って来て食べるだろうなと思える。手で頭をなでられるほどの近さにいて、首を羽毛のなかに入れて眠っているのもいた。カモの種類は多い。マガモキンクロハジロオナガガモハシビロガモ、色とりどりの、つややかな羽だ。だが、白鳥の姿は見えなかった。

 探鳥に来た人は数人、カメラを構える人もいる。
 「かわいいね」
と、つぶやく人。
 「ほんとうに、かわいいね」
ぼくも応える。
 コハクチョウが数百羽、シベリアからやってきているはずだがと、鳥たちを世話し、保護している市民の「白鳥の会」の看板を見ると、現在数が書かれていた。百数十羽だった。
 白鳥は、昼間はどこかへ食べ物を探しに行って姿が見えないが、夕方には帰ってくる。白鳥を見ることができなかったけれど、カモたちが見られただけでもよかった、と思っていたら、川の上流から飛んでくる大きな塊が眼に入った。コハクチョウだ。列を作り、力強くはばたく翼を見るだけで、感動する。やってきたのは十数羽、脚を伸ばして、カモたちの間に着水した。それから続けて小さな群れが、いくつかやってきた。群れの後から、一羽で追ってくるのもいた。
 舞い降りた白鳥たちは、長い首をのばして、音もなく泳ぎ、思い出したように、クーッと鳴く。
 白鳥を見ることができた。それだけでなんだか満ち足りた気分になった。幸せな気持ちになった。白鳥の飛翔は人に感動をもたらす、どうしてなんだろうと思う。