孫が帰ってきた

 小学1年生の孫のセイタロウを畑に連れていった。昨日神奈川に住む息子が連れてきて、今朝セイタロウを置いて仕事で帰っていった。親から離れて孫はこの夏10日ほど、じいじ、ばあばと一緒に暮らす。
 「鍛えてやるよ」
と息子に言っておいた。孫用のメニューをどうするか。まず今朝はジャガイモの収穫を体験させてやろう。
 暑い日差しのなかで、ぼくは備中鍬でイモを掘り出す。セイタロウは初め土の塊を移植ごてで崩したりしていた。そのうちイモの表面が乾燥するとコンテナに入れる。長時間は無理だから、30分ほどのお手伝いにした。
 「今から草刈機で草を刈るからね。見ているんだよ」
 草刈機の紐を引っぱってエンジンをかける。軽快なエンジン音を響かせて、回転盤の紐が回りだす。草刈機を肩にかけて高速回転に切り替えると、機械は草を短く刈り飛ばしていく。セイタロウはじっと草刈を見ている。畑に約1時間、日は高く気温がぐんぐん高くなる。ペットボトルを3本もってきていた。セイタロウは一本を口にする。もう1本はその水で手を洗う。
 「はい、水をかけるよ。手をごしごしするんだよ。それ、手の甲にも土がついているよ」
 3本目は、ごくりごくりと二口ぼくの喉に流し込み、残りで自分の手を洗った。
 「さあ、帰ろうか。あっ、向こうの道から、ギリガン怪獣がやってくるぞ。こっちの武器はこれだ」
草刈機と備中鍬を指す。
 「車をバックさせるぞ。逃げよう。あっ、クルミの木の横に、怪しい影、ゴージュリン怪獣が隠れている。やばい」
 セイタロウも真剣な顔。
 「ボンゴレイ怪獣もやってきたぞ。逃げろ」
 セイタロウは同調して助手席から声を飛ばす。
 「あの土の山の向こうに何かいるぞ。上から攻めてくるぞ」
残土置き場を見ながらバックさせた車をクルミの木の下に引き入れ、方向転換させると、前進のギアを入れた。
 セイタロウは、げらげら笑い出した。
 家に帰ると、工房に入って、乾してあるドクダミ草をはさみで小さく切る仕事。室内で乾燥させたドクダミは、ドクダミ茶になる。セイタロウとぼくは向かい合ってはさみを使って切る。途中でセイタロウは、温度計を外して工房のウッドデッキに置きに行った。
 「50度になるかな」
 セイタロウは確かめたいようだ。
 「温度計は目盛りが50度までしかないよ」
 温度計を置いてまたドクダミを切る。途中で、セイタロウは温度計を見に行って叫んだ。
 「49度だあ」
 「直射熱だからなあ」
 ぼくはそう言いながら、こうやって自分でいろいろやってみるのもいいことだと思う。山ほど体験して帰れ。
 午後は今夏最高の気温になった。36度だ。昼寝をしてから、家内とセイタロウに提案した。
 「森へ行こうか」
 「行こう、行こう」
となった。家では苦しいほど暑い。森の涼しさに浸りに行こう。
車にランも一緒に乗せて、烏川渓谷緑地の森林エリアに出かける。常念岳のほうに坂道を上っていった。森の道は何度か涼しい。ランが興奮する。サルの臭い、熊の臭い、野生の臭いが車窓から入ってくる。
 散策路の整備された県立公園の森は自然の森だ。熊よけの鈴のついた竹の杖が入り口に置いてあった。「自由に使ってください」とある。散策路のところどころに、熊に知らせる金管が吊るしてあった。それをカーンと鳴らして森の木々の間を上ったり下ったりしてコースを回った。真ん中辺りに湧き水があった。セイタロウは竹の杖をついて、どんどこトップを歩いた。時刻は4時を回り、汗がふき出す。それでも家にいるよりははるかに快適だった。
 朝5時から一緒に散歩し、クワガタやカブトムシを探したセイタロウは疲れて、晩御飯が済むと寝てしまった。