詩「黙示」(木原孝一)

 

 

 

詩「黙示」(木原孝一)

 

 

   「黙示」という詩。そのタイトルの傍らに、小さく詞書(ことばがき)が添えられている。

 「1945年 広島に落とされた原爆によって 多くの人々とともに 一人の女性が死んだ その 女性の皮膚の一部が地上に残されたが それは殉難者の顔を そのままうつしていた」

 

 

           黙示

 

  わたしは人間の顔ではない

  一枚のガーゼの上に ピンで留められて

  だが わたしは叫ばずにはいられない

 

  この歯のあいだにひそむもの

  それがウラニウム

  この鼻孔の底にうごめくもの

  それがプルトニウム

  見えない眼のおくに光るもの

  それがヘリウムだ

  世界はいま

  毒の雨にぬれた 小さな暗礁にすぎない

 

  わたしは燃え残った人間の部分だ

  一枚のガーゼのうえに眠っていると

  地平線のむこうから わたしの失われた部分が呼びかける

 

  見ろ 暗黒の海と陸をつらぬく

  ウラニウムの雲を

  聴け 沈黙の窓と屋根に降る

  ヘリウムの雨を

 

  そして 人の子よ

  自らの手では ほろびるな

  生命あるものは いま

  荒野をすすむイナゴにすぎない

 

 

    この詩は、原爆被害者として、資料館に展示された女性の皮膚に触発されて作られた。

    この女性は、皮膚だけを残した。また建物の石段に、そこで焼け死んだ人の影だけが残されていた、その写真も展示されていた。

    1945年8月から80余年、今世界では第三次世界大戦勃発を予感させる事態が起きている。