歌「田舎の四季」

  

 

    私が小学生の頃、ラジオから流れてくる歌に聞き耳を立てた。初めて聞く歌だったが、四季の農村生活を歌い、懐かしい感じがする。不思議なことに一度聞いただけなのに歌は記憶の中にとどまり、ときどき口をついて出てくる。だが、4番まで歌詞全部は正確に覚えていない。

    最近も野を歩いていて、その歌が口から出てきた。調べてみたら、明治時代につくられた小学校唱歌だった。題名は「田舎の四季」、もう日本中から消えてしまった田舎の自然と暮らしが詠われている。子どもも大人もこの歌を歌うと故郷が懐かしくなったことだろう。けれど今はもう、農業のあり方も、人間の暮らしも、子どもの生活も、自然の状態も、すっかり変わってしまった。

 

        田舎の四季

1、道をはさんで 畑一面に  麦は穂が出る 菜は花盛り

  眠る蝶々 飛び立つヒバリ  吹くや春風 たもとも軽く

  あちらこちらに 桑摘む乙女  日増し日増しに春蚕(はるご)も太る

 2、並ぶすげがさ 涼しい声で  歌いながらに 植えゆく早苗(さなえ)

  長い夏の日 いつしか暮れて 植える手先に 月影うごく

  帰る道々 あと見かえれば 葉ずえ葉ずえに 夜露が光る

3、二百十日も ことなくすんで 村の祭りの 太鼓が響く

  稲は実が入る 日よりは続く 刈って広げて 日に乾かして

  米にこなして 俵に詰めて 家内そろって 笑顔に笑顔

4、松を火に焚く 囲炉裏のそばで 夜はよもやま 話がはずむ

  母が手際の 大根なます これが田舎の 年越しざかな

  棚のモチひく ネズミの音も 更けて軒端に 雪降り積もる 

 

 ぼくらが17年前、安曇野に引っ越してきた時、近くに住む農家の老人が、

 「このあたり、子どもの頃はホタルが群舞していたがのう」

と言った。今、この地区ではホタルは消滅した。子どもの頃、夏の河内野でよく見かけたイタチ、トカゲ、ヘビ、バッタ類、カブトムシ、クワガタ、ゲンゴロウ、メダカなど、無数の小動物の姿も見ることはない。この夏、アシナガバチ、クモの巣もなく、トンボ、カマキリの姿もない。