夏の合唱団」

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 夕闇が深まったころ、ランを連れて近所の散歩に出た。

 街灯の灯に、道の上の長い紐のようなものが、浮かび上がった。前かがみになって見るが、ヘビの死体のようでもあるし、草の太い茎のようにも見える。何だろう。明日明るいときに見よう、そう思って帰ってきた。

 翌日、そこへ行ってみると、ヘビのようなものはもう見当たらない。

 この地に来て15年になるが、ここでヘビを見たのは一回だけだった。庭にランがつながれていて、その近くをヘビが這って行った。ランは、「怪しいやつだ」、というような顔つきで眺めていた。

 僕の子ども時代、大阪の河内野には、たっぷり自然が残っていた。トカゲ、ヘビ、イタチ、カエル、キリギリス、トンボ、ムカデ、セミ、カマキリ、イナゴ、バッタなど、無数の生物が毎日遊ぶ子どもの周りにいた。セミウシガエル、キリギリスは「夏の合唱団」で、毎日、彼らの合唱はうるさいほど盛んだった。朝、目が覚めると、セミの声が「ジャンジャンジャン」、「ジージージー」。ウシガエルが、「ボウ、ボウ、ボウ」。キリギリスが「チョンギ―ス、チョンギース」。

 

 移住した安曇野は静かだった。「夏の合唱団」は存在していなかった。ヘビもいない、トカゲもいない。

  キリギリスも、トノサマバッタも、ショウリョウバッタもいない、

 ヘビのようなものを見てから三日目。

 朝のウォーキングの帰り道、あのヘビのようなものが、別のところに移動して道の上に伸びていた。おう、やっぱりヘビだ。頭がつぶれて死んでいる。車にひかれたのだろうか。背中の模様から、ヤマカガシのようだ。かろうじて生息していた貴重なヘビが、死んでいる。

 散歩の途中で出会った、やはり犬の散歩をしているおばさんが言った。

 「昔は、いっぱいいたけれどね。今は圃場整備をし、田畑に農薬や化学薬品を使うからね。いなくなったね。」