ときどき新聞に載る、佐伯啓思「異論のススメ」。彼の論には読ませる力がある。かつてこんな文章があった。
「今日、西洋の思想や科学が作り出したグローバルな世界は、ほとんど絶望的なまでに限界に向けて突き進んでいる。新たな技術を次々開発し、経済成長に結びつけることで、人間の幸福を増大できるという近代主義は、極限まで来ている。日本は、丸ごとこの近代主義にのみ込まれ、グローバル化に遅れまいと、上滑りをしているように見える。だが、国際化やグローバル化の掛け声よりも、われわれが今日必要としているのは、我々自身の哲学である。
100年前の第一次世界大戦は、ヨーロッパにとっては、第二次世界大戦と比較しても劣らない凄惨な、絶望的な戦争であった。シュペングラーはこの時、「西洋の没落」を書いた。この書の基本的な主張は、ヨーロッパ文化は、いずれ世界的な文明になってゆく。するとその文明はすべてを形式化して、本当の意味での生命力を失い、やがて衰退していくという。ヨーロッパの生み出した科学は世界化した。しかし20世紀後半以降、そこから新しく驚くような学術は出てこない。シュペングラーが重視したのは、経済の中心に貨幣が居座り、金融的な権力が世界化するという点だった。グローバル化した経済の中心に金融(貨幣)があり、農業も産業もそれによって動かされてゆく。この巨大な船の中で、誰が主導権をとるか。近代文明の根幹は腐食してきている。」
歴史は第二次世界大戦を経て、現代に至る。ロシアのウクライナ侵略、中国の動き、アメリカの動き‥‥、事態はきわめて危機的な方向に向かっている。