ダウン症の子の優しさ

 

 灰谷健次郎が、正村公宏夫妻著「ダウン症の子を持って」を読んだ時の感動を書いていた。ずいぶん前の著書だけれど、その中の一文をここに書く。

 

 「私(妻)が居間で本を読んでいると、彼(ダウン症の子)の部屋から、すすり泣きの声が聞こえてきました。初めはふざけているのかなと思っていたのですが、いっこうにやまないので、変だと思って行ってみました。すると彼は、ハンカチを顔に当てて本当に泣いていました。私はすぐに声をかけないで、様子を見ました。

 ラジカセにはテープがかかっていて、シューベルトモーツァルトの子守歌がつづいていました。彼は、私が入って来たことに気づきませんでした。子守歌のところが終わると、巻き戻しをして、またかけました。そしてまた、ハンカチに顔をうずめ、背中をまるめて泣いていました。私が彼の肩にそっと手をかけ、「悲しいの?」と聴くと、彼はコックリしました。私は黙って部屋を出ました。」

 

 この心の優しさ、この感受性、人間の中のその精神性に感動する。一方で、今世界や、現代社会で起きている情況を見ると、殺戮、環境破壊、とどまることがない。人類も地球も滅びに向かっているのかと慨嘆するばかり。