すねに傷を持っていない人はいないだろう。だれもが傷を持っている。その傷が記憶となって、その後の経験知、方向舵となる。国もまた同じ、傷の記憶によって、再び同じ間違いをしないように考える。けれど、人間は傷の記憶を忘れ、その時々の状況に合わせて、都合の良い考えに走ってしまう。
今、ロシアを考えるとき、日本は日本の古傷を、アメリカはアメリカの古傷を自ら取りあげることによって、過去の自己の過ちを確認し、だからこそ、他者、ロシアをただすことが必要なのだと思う。
朝日新聞の「天声人語」三月特集号を開くと、二月末に始まったロシアのウクライナ侵略の経過と危険な世界の状況を、日を追って示している。
「天声人語」3月3日の記事を要約すると、
国連総会でロシアは、「責任はウクライナの現指導部と西側諸国にある」と言った。戦前の満州事変のあとの日本の立場もかくのごときものだったか。日本軍は自作自演の線路爆破を行い、軍を展開して、「満州国」をつくった。それにたいして国際連盟の総会は、44箇国のうちの42箇国が満州国を否認した。そこで日本代表の松岡洋右は訴えた。「原因は中国の無秩序にある。日本は最大の被害を受けている」、と。
そして日本は戦争にのめりこんでいった。泥沼の戦争、最後のとどめは、日本全国の都市という都市への、一般民衆への爆撃となり、原爆投下となった。日ソは不可侵条約を結んでいたが、ソ連は満州に侵攻し、一般の日本の開拓農民はシベリアに抑留され、膨大な数の人が死んでいった。
「天声人語」3月3日は、
ロシアが今破壊しているのはウクライナであり、世界の秩序であり、自国の運命である、と結んでいる。
多くの国の歴史をひもとけば、「すねの傷」だらけだ。自分の都合をつくりあげて、他者を攻撃する「すねの傷」が、自国の命取りとなってくる。