ぼくがほぼ専用で乗っている車、ミニカを廃車にしてきた。軽自動車の貨物車で、簡易の後部座席をペチャンと倒すと、後部は一坪ほどの広さとなり、そこに、畑の道具や石油缶を乗せて運んだり、稔った黒豆の根元から切り取ったのをそのまま積んだり、店で買った肥料を積んだりしていたから、いつも汚れがひどかった。
この車は、13年前に中古車で買った。その時は、通勤に使うためだった。松本の私学の高校に時間講師として通い、8年間重宝していたが、今は維持するのに費用がかかりすぎる。二年ごとの車検の費用は、やれ部品が古くなっているとか、やれ傷んでいるとか、いろいろ業者から言われて、車検ごとに七万円ほどかかる。それに自動車税や保険料金もかかる。もう一台普通車があるから、この軽自動車は廃車処分にしようと考えていた。
ランとよく散歩した道中で、五年ほど前、自動車修理、整備、中古車販売の店を一人で開いた若者がいて、「車引き取ります」という看板を立てていたから、そこにミニカを持って行くことにした。
昨日の午後、ミニカとのお別れ、汚れていた車内や外装をきれいに拭き掃除した。すがすがしく美しくなった。
そして最後の運転、車屋に持って行く。店は山手の方にある。周りは田んぼだ。
若い店主は、丁寧で朴訥だった。
「塩尻出身で、13年間修理工場で働いていたんですよ。独立しようと思って、探したんですが、なんとも貧乏だったから、どこも借りられず、やっとここが見つかったんですよ。たった一人の出発で、みなさんの親切や協力のおかげで、やっと五年目を迎えることができました。」
店の事務所の壁に、クレヨンで書いた子どもの絵が、数枚貼ってあった。
「あれはお子さんが描いた絵ですか。」
「ああ、あれ、お父ちゃんを励まして描いてくれたんですよ。」
おとうちゃん、がんばれ。
この会話で、二人の顔に笑顔が浮かび、互いの心に温かいものが流れた。
「一万円で買い取らせてもらいます。」
廃車のつもりだったから、なんだか、申し訳ない気がした。
「帰りは、送っていきましょうか。」
「いや、この前の道は、犬と一緒に散歩していた道ですから、歩いて帰ります。二本ストックをもってきました。」
店を出て、下ってくると、電線工事をしていた。ガードマンが通行の安全を見ていた。一人のガードマンがつかつかと寄ってきて、
「何年のお生まれですか。」と聞く。
「昭和12年です。」
「私、昭和23年です。長いこと自衛隊にいました。定年まで。」
ガードマンは、ぼくの肩を抱くようにして、小声で語る。73歳だが、今もこうして一日道路に立って働いている。
この人からも、温かいものを感じた。
帰り道、柴犬のカイトを連れた望月のおばさんに出会った。
「車を処分してきました。」
おばさんは驚いて、ひとしきりおしゃべりがはずんだ。
家に帰って、あの店長の子どもたちに何かプレゼントできないかなあ、家にある古本だけど児童書ないかなあ、と考えている。