ベトナム青年、畑をつくる

 昨日の日曜日、日本語教室にシャンサイを庭の畑から引き抜いて持っていった。シャンサイが最近の暑さでとう立ちしそうであったことと、ベトナム人実習生が、シャンサイを食べたくて店で買ってくると聞いたことがあったことと、それを思って持って行ってやろうと思った。
 ルアンとトーとドアンの三人がやってきて席に着いたところで、
 「このシャンサイ、茎がかたいけれど、葉っぱ食べられますか」
と聞くと、トーが香りをかいで、
 「だいじょうぶ、食べられますよ」
と喜んでくれた。
 数日前からルアンとメールでやりとりしていたから、
 「トマトの苗を植えてみますか」
と聞くと、そこからいろいろ話が発展して、生きた日本語学習になった。
 トーとドアンは同じ寮、ルアンの寮は別の場所、ルアンは寮の裏に空き地があるが石ころだらけで植えられないと言う。トーは野菜の種を播いているが芽がまだ出ないらしい。肥料分のない土の状態が予想できたから、肥料の話をした。黒板に、「発酵鶏糞」と「牛糞堆肥」と書いて、その言葉を彼らの電子辞書で調べさせた。
 「けいふん、ぎゅうふん、分かった」
 「はっこう、たいひ、分かった」
 ベトナムでも堆肥を入れる、同じだ。
 「ルアン、あした、寮の空き地を見に行くよ。何時がいい?」
 仕事が終わって帰ってきた時間、午後6時ごろがいい、ということで、月曜日に行くことを約束した。
 そして、今日、暑い一日が終わり、夕方になった。
 ミニカの荷台に、鍬、移植ゴテ、発酵鶏糞、よう燐、苦土石灰ミニトマトの苗4本、じょうろを載せて、5時半に家を出た。
 彼らの寮は普通の民家だ。行くと、今日はもう仕事が終わって寮に帰っていた。ルアンと、日本語教室に来ていない一人と時たまやってくるもう一人の三人が庭に出てきて、空き地に畑をつくりトマト苗を一緒に植えることにした。
 なるほど庭の土は石まじりの肥料っけのない土だ。有機質がまったく入っていない。
 「ここにトマト、植えよう」
 4本が植えられるだけの面積を、ルアンがスコップで掘り返す。そこへ鶏糞、苦土石灰、よう燐を適量まいて、鍬で耕して混ぜる。
 「ほんとうは、これで一週間ほど置いてから植えるのがいいのだけれど、時間がないから、根っこに肥料分がくっつかないように、植え穴に別の土を入れるよ」
と言いながら、作業を進めて、苗を植えて、たっぷり水を撒いた。
 「実ができたら、朝仕事に行くとき、食べていきます」
と言うと、彼らうれしそうな笑顔になった。
 庭のべつのところに、小さな葉っぱが出ている。よく見ると、スイカのようだ。聞くと、うまく説明できず、指で爪のところを動かした。
 「種から出てきたの?」
 ルアンがうなずく。スイカを食べてその種を播いたのだろうか。同じところから4本芽が出ている。このスイカの周りにも肥料を入れておこうか、と周囲にも肥料を入れ耕しておいた。
 道具の後片付けは、彼ら機転がきいて動作も速い。
 「センセイ、ビール飲んで」
 「いや、飲まないよ、帰ります」
 「じゃ、スイカ食べて」
 「いやいや、私はもう帰ります」
 「じゃ、待って」
 彼ら部屋に帰って、何かを持ってきた。
 「これ、どうぞ」
 ポリ袋に入っていたのは、ベトナムで買ってきた、数種類のベトナムの野菜の種だった。自分たちは使わないから、これを使って、と言う。こんなにたくさん要らないよと言ったものの、自分たちが持っていても役に立たないと言うことだろうなと思い、
 「じゃあ、これで野菜をつくって持ってきてあげます」
と言って、もらうことにした。彼らの顔にまたまたうれしそうな笑いが出た。

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 <PS>
 5月27日、コメントくださった ぐりんてぃさま。ありがとうございます。たいへんうれしいです。プロジェクトへの寄付は次の口座で受け付けています。お志を福島の子どもキャンプに役立たせていただきます。
 八十二銀行三郷支店 普通口座 口座名「安曇野ひかりプロジェクト」 店番号 481
  口座番号 386305 
です。