小さな町の大きな試み <新聞報道に驚く>



 今朝の朝日新聞の記事に注目した。小さな町なのに、いや小さい町だからこういうこともできるのだろう。住民の知性と情熱がもたらす町づくりだ。
 北海道・下川町、道北の人口3350人、過疎の町。冬は零下30度にもなる。町営住宅26戸、障害者支援施設で120人が暮らす。街の通路には冬でも行き来しやすいように、地元のカラ松を使って通路と屋根がつくられている。住宅の暖房や温水は間伐材のチップをボイラーを使って燃焼させ供給している。「森林バイオマス」という熱供給の仕組み。産業のシイタケ菌床栽培は、この供給熱を利用し、年間売り上げ7千万円。熱は育苗にも使われる。ボイラーは11機、役場、学校など36箇所の暖房と温水にも使われる。町財政の1900万円が黒地になり、半分は子育て支援に使われる。公共施設の7割と町の5割が熱の供給を受けている。この町に希望を抱いて、移住してくる人も増えた。
 町は森林資源を守るため、植林→育成→伐採を60年で一回りさせる「循環型森林経営」という手法をとり、豊かな森を守るための国際認証「FSC」も取得した。
 「森林バイオマス」という再生可能エネルギーの導入により、約3千トンの二酸化炭素(CO2)を削減し、町独自の温暖化対策も進む。
 ところが昨年、森林バイオマスの新計画が頓挫した。三井物産の子会社が手がける大規模なバイオマス発電に協力し、発電に伴って生じる熱を安く買い取ることで熱供給の範囲を広げようというものだったが、関連予算案が町議会で1票差で否決された。賛成派は年間約4800万円と説明された経済効果や雇用を期待した。反対派は、これまでの地域に根ざした仕組みがとって代わられ、町内で利益が回らなくなると危惧した。
 反対した町議は「住民といっしょに将来を考える必要がある。今回こういう形で立ち止まったのだから、対話を積み重ねたい」と話す。
 6日の北海道地震。災害対応とエネルギー供給の課題、地域の自立に向けた模索が続く。
 もう一つ、熊本県小国町の場合。
 地熱、住民主体で小規模発電を行なう小国町。約30年前、特産の小国杉を利用して建てられた体育館や物産館がある。小国は年間を通じて多雨多湿で、良質な杉が育つ。町の総面積の8割を森林が占める。
 だが小国でも林業は衰退していた。安い輸入木材の影響で、木材単価は下がった。
 今世紀に入り、CO2を吸収する森の価値が注目されるようになると、町と森林組合が連携し、森の恵みを生かす新たな取り組みを進めた。「カーボンオフセット」だ。町が森林のCO2吸収量を数値化して売り出し、CO2を排出する企業が購入することで自らの排出量から吸収量分を引いてもらう仕組み。ドイツBMWなど大手企業が購入した。
 だが、過疎化は止まらず、高齢化率も高くなっている。町はもう一つの地域資源、地熱にも期待する。湯治場として知られる地区に、住民主体の小規模な発電所をつくることを決め、15年に商用運転を始めた。
 町は、地熱、風力、太陽光をあわせたエネルギー自給率が200%を超える。これに木質バイオマスによる熱供給を加える構想だ。小国杉を地熱で乾燥させ、木材の品質とブランド価値をより高める試みも進む。
 「かぎは住民の経験に基づく知恵とやる気。それを行政がうまく引き出し、調整するかが重要」という。