花咲く春の野


土筆(ツクシ)の大群落だ。
畔一面に、緑の草も混じる枯れ草の上に礼儀正しく、
枯れ色の土の筆をしゃきっと立てている。
目立たない質素な坊主頭。
野を見回すと、あっちの畔にも、こっちの畔にも、
土筆の大集団。
昨年はこんなに大繁殖ではなかった。


別の畑へ行けば、野道も畦も、
セイヨウタンポポが群がって咲いていて、
タンポポが春を謳歌している。
畝一本、菜の花が満開のところがあった。
甘い香りがプンとする。ところが虫の姿がない。
これだけ咲いたら、香りに誘われてミツバチやハナアブが集まってくるはずだが、いない。
どうしてだろう。
モンシロチョウ、モンキチョウのヒラヒラ舞う姿もない。


圃場整備の工事のあと二年がたった田の畔には、春の七草ナズナが群落をつくっている。
土を入れ替えて固めた畔、今はナズナがここを独占している。
朝の散歩で、ランはここを通るたびに、むしゃむしゃと羊のように音たてて食う。
白い花も茎も葉も食べている。どうもこれがお腹にいいらしい。ウンチが理想的なウンチ。ドックフードだけでは、自然な何かが不足するのだと思う。


紫のムスカリが咲いている。草はらにもムスカリが入りこんで咲いている。芝桜が咲いている。
スイセンが畦を飾っている畑がある。道沿いの畑、スイセンで通る人をなぐさめる。農家のその人の心を感じる。
ホトケノザヒメオドリコソウも盛んに春の歌を歌う。
ホトケノザのハート形の葉が、茎の周りを下から上へ、葉を小さくしながら重なるように付いている。先端は紫色を帯びる。
このホトケノザ春の七草ホトケノザではないらしい。春の七草ホトケノザは、コオニタビラコであるそうな。


カラカラカラ、カタカタカタ、何の音だろうと思いながら正体がつかめなかった。今朝それがキツツキであることがわかった。
山で、もっと細かく早く叩く音は、何度か聞いたことがある。しかし、この春ここで数回聞く音は、それよりテンポが遅い。
今朝は、小さな雑木林の方で聞えた。水路の中に音のする何かがあるのだろうと、音のする方へ歩いていくと、音は上の方から聞こえてくる。
雑木林をくるりと向こうに回ると、音は林の樹の方で聞え、一羽の鳥がその瞬間に飛び去っていった。
 正体がキツツキだと分かった。