ブレヒト「ヴァイマール憲法義解」















   ヴァイマール憲法義解 <第一条>

              ブレヒト (野村 修訳)


 国家の権力は国民から出る。
 ――だが出てからどこへ行く?
 そう、いったいどこへ行く?
 ともかくどこかへは行く!
 警官が建物からぞろぞろ出る。
 ――だが出てからどこへ行く?
 そう、いったいどこへ行く?
 ともかくどこかへは行く!


 見たまえ、でっかい群れが行進する。
 ――だがどこへ行進する?
 ま、どこかへ行進する!
 いま建物をまわってジグザグする。
 だが、ジグザグしてどこへ?
 そう、ジグザグしてどこへ?
 ま、ジグザグしてどこかへ!


 寸時、国家の権力はめくらめく。
 何かが立ち並んでる。
 ――何が、そこに並んでる?
 ――まあ、何かが並んでる。
 と、にわかに国家の権力がわめく、
 わめく、即時解散だ!
 ――なんで即時解散だ?
 だまれ、即時解散だ!
 

 が、なにかはイゼンそこに存在する。
 なぜ? とその何かが言う。
 ――なぜ、あいつがなぜと言う?
 あんなやつがなぜと言う!
 で、国家の権力は発砲する、
 と、その何かが倒れる。
 いったい何が倒れる?
 なぜまたすぐに倒れる?


 何かはよこたわる、どさっと倒れて。
 どろまみれで よこたわる!
 何が、何がよこたわる?
 何ものかがよこたわる。
 何かがそこによこたわる、こときれて。
 だが、それこそは国民!
 ほんとにそれが国民?
 そうだ、ほんとに国民。



 ブレヒトは1898年にドイツに生まれた。ドイツの劇作家で詩人だった。医学を学び、第一次世界大戦のときは衛生兵だった。第一次世界大戦の後、ワイマール共和国が生まれた。その憲法は、近代の民主主義憲法の典型とされた。しかし、ナチスの政権奪取によってワイマール共和国も憲法も消滅した。ブレヒトは家族と共に国外に脱出し、15年間、オーストリアデンマークスウェーデンフィンランドソ連、フランス、イギリス、アメリカ、スイスを転々とし、反ナチの活動を続け、詩を書いた。


 2013年、ワイマール憲法について、麻生太郎副総理はこんな発言をした。
 「ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力でとったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
 そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持であったり、そうしたものが最終的に決めていく。‥‥‥
 憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」