ネコの冒険(ぼうけん)

 窓からのぞいたら、田んぼ向こうの雪のあぜ道を黒い動物が歩いていました。キツネの巣のある草やぶと雑木の林が東の方にあります。そっちの方から歩いてきたようです。その黒い動物はキツネではありません。小型の犬ぐらいの大きさかな、いえいえもうちっと大きく見えます。でも足は長くありません。もうすぐ夕方になります。黒い動物は、小走りで進んでは立ち止まり、また走り出します。たまに車の通る道路に来ました。さいわい車が来ません。そこを横断し、田んぼ道をちょこちょこ。黒い動物はアカザという名の枯れ草がぼうぼうと茂っているところに来ると、草むらの中に入らないで左に曲がり、草むらの外側をこちらの方に近づいてきました。その草むらは、先日、不思議なおじさんが朝早くやってきて、スズメをつかまえていたところです。草むらには草の実がたくさんあるので、毎日100羽ほどのスズメがいつも遊んでは、地面に下りて草の実を食べていました。不思議なおじさんは、あみの下に、えさをおいて、えさを食べにスズメがあみの下に入ると、ばさっとあみを落として、スズメをとりました。それでスズメは半分ぐらいにへってしまいました。おじさんはそれから来なくなりました。黒い動物はそこに来て、あたりをくんくん、においをかいでいました。そしてまたちょこちょこ歩いて、草むらが終わると右にまがりました。雪がまだ少しつもっていました。よく見ると、その黒いのはまるまるとした大きなネコのようです。それから黒い大ネコは西の方へとことこ進んでいきます。いったいどこへ行くんだろう。このネコがどこへ行くのかつきとめたいと、ぼくは思いました。300メートルほど行くと、ネコは左に曲がりました。角に一軒家があります。お米をつくっているヒデさんの家です。その前を通り、やがて村の中に入りました。山の絵を描いているシュウさんの家の前を通りました。道祖神の前を通りました。干し柿にする柿をくれるアヤコおばさんの家の前を通りました。もうここまでで700メートルもやってきました。向こうに車の通る道が見えてきました。あぶないぞ、あずないぞ、気をつけろ、気をつけろ。ネコの姿がふっと消えました。とまた、あらわれました。道路に出るとネコは右に曲がって、10けんほど新しい住宅のたっているところで見えなくなりました。しばらくあたりを見回しましたが、もうどこにもいません。かんこくりょうりの店に入ったのか、ふくちゃんの家に入ったのか。どの家も、戸がぴったりしまっています。それでもネコの家がどこかにあるのです。
 ネコが歩いたきょりは、かたみち1キロメートルはあります。ぼうけんに出て歩いたきょりは、2キロメートルをこえるでしょう。雪道をどこへ、なにしに行ってきたのかなあ。