冬のミツバチ

息子たち、孫たちが帰っていって、静かさが戻った。部屋の中の物音がよく聞こえる。
「何か飛んでいるよ」
と家内が言う。
「ほら、カーテンにとまった、あれえ、蜜蜂やわ」
プーンとかすかな羽音を立てている。
「どこから入ってきたん?」 
外は毎朝零下5度前後になる。とても昆虫には耐えられない。家の中は暖房がきいて温かい。どこからどうして、部屋の中に入り込んだものか。以前から入っていたのか。
「どうしよう? 外へ出してやれば、生きていけないし」
紙の空き箱をもってきて、そこに入ってもらい、朝食のときに食べているドイツの蜂蜜をほんの少し、割り箸の先に付けて、蜜蜂の口元に持っていくと、お腹がすいているだろう蜜蜂は、それをチュチュツと吸っているように見えた。
「蜂蜜を吸っているよ」
「へえ、そう、よかった」
さて、このまま家の中に置いておくこともできないし、気温が上がれば自分の巣に帰っていくかなあ、と太陽がぽかぽか暖かい昼ごろ、外に出してやったら、元気に飛んでいった。
はて? 彼の巣はどこにある? その巣に無事に帰りつけるかな? 蜜蜂の巣箱だったら冬でも自由に出入りできるのかな?
養蜂業者のHPを見ると、こんなことが書いてあった。


冬になると、ミツバチたちは巣の中に閉じこもります。
冬眠するのではなく、女王バチを中心にして、働きバチたちがからだを寄せ合い、蜂球をつくっています。
細かい羽ばたきで熱をおこして暖め合い、冬でも巣の中は30度前後に保たれています。
蓄えておいた蜂蜜が大切な食料となっています。
寒い早春でも、ぽかぽか陽気の日には、巣から出た働きバチが、梅やイヌノフグリといった早春の花に飛んでいきます。
働きバチが食料を少しずつ持ち帰りはじめると、巣の中も活発になり、温度も上がります。
女王バチの産卵がいよいよ再開すると、ミツバチたちが元気よく動き回る暖かい季節がやってくるのです。


驚くねえ、冬でも巣の中は30度前後に保たれているなんて。
あの蜜蜂、自分の巣にもどれば、たっぷり食べものもあり、仲間の暖房もあり、元気に生き伸びて春を迎えることだろう。