スミレ


 この7年間で、庭の「においスミレ」があちこちに広がって、春はほんわかスミレの香りがここちよい。思わず深呼吸をしたくなる。奈良からもってきたのは、ほんの一株、それが毎年株を広げた。その広がり方が、初め植えた株から数メートルほど離れたところに別の株が誕生していて、それはそこで株を広げ、そうして庭の各所に「においスミレ」の島がある。
どうしてそんなに広がったのか、風土がうまく合ったせいかなと、それぐらいしか考えていなかった。
 「身近な雑草の愉快な生き方」(稲垣栄洋 ちくま文庫)のなかに、その秘密が解き明かされていた。
 山野に咲くスミレが、コンクリートの割れ目や石垣のすきまから生えて、花を咲かせていることがある。不思議なことだ。なぜ? その謎は、スミレの種にある。スミレの種子には、「エライオソーム」というゼリー状の物質が付着している。この物質はアリの好物で、お菓子の「おまけ」のような役割を果たしている。子どもが「おまけ」ほしさに、お菓子を衝動買いしてしまうように、アリもまた「エライオソーム」を食べたくて、種子を巣に持ち帰る。このアリの行動が、スミレを遠くへ運ばせる。アリは、「エライオソーム」を食べると残った種子はいらないから、巣の外へ捨ててしまう。そうして、捨てられた種子からまたスミレが育つ。アリは、石垣の隙間などに巣をつくる。そこで思いがけないところからスミレは花開く。アリの巣の周りには、アリが捨てた食べかすがあって、それが肥料になり、スミレは育つということなのだ。さらに子孫が残るように、花が咲いて授粉ができる仕組みがいる。かくして花の構造がそうなった。花は後ろに突き出ていて、長くなっている、訪れるハナバチがその花に頭を突っ込むと、花粉がこぼれ落ちてハナバチの頭にふりそそぐ。そうして虫による交配が進むように仕組んでいる。
 植物たちもうまくつくられたものだ。
 「早春賦」の作者、吉丸一昌の作詞になる「花すみれ」という歌がある。曲はイギリス民謡である。短く、可憐なスミレの花にぴったりの歌で、かわいい。この歌も「早春賦音楽祭」の合唱歌のなかに入っている。

         花すみれ

   1、わたしは 花よ つぼみの 花よ
     春の野原で こくびかたむけ
     さびしさ一人 ただすみれぐさ
   2、いざ来よ されど 静かに歩め
     摘むを願いの わが身なれども
     足に踏まれて 泣くのはいやよ