小さき命


 台風が過ぎた今朝は青空が広がっている。久しぶりに常念山脈の稜線が見えた。
 昨夜、風のいちばん強かった時は、午後10時頃だった。ごうごうと吹き荒れ、家がかすかに揺れた。南風が強く、ドーンドーンと家の外壁に打ち付ける何かの音が聞こえた。風の息切れが長くなって、突如強風が吹いたりしていたが、やがて風は収まっていった。
 今朝、外に出てみると、アサガオグリーンカーテンは倒されていたが、被害らしきものは見当たらない。倒れたまま朝顔の花は咲いていた。
 驚くのは小さな生き物の姿だった。あっちでもこっちでも、クモの巣が風に吹きちぎられず残っており、巣の真ん中にクモがいる。
 おい、おい、おい、お前たち、どのようにしてあの風を避けたんだい。
 トンボが飛んでいる。モンキチョウがゴーヤの小さな花の蜜を吸いに来た。シジミチョウも草の上を舞っている。ユスリカが群れている。
 おい、おい、おい、お前たち、どのようにしてあの風を避けたんだい。
 稲刈りのすんだ田の畔にはエノコログサがたくさん、すいすいまっすぐ伸びて、風になびいている。暴風を軽く受け流した。強風の時は地面に伏せて、止まればまた起き上がる。
 エノコロとは、イヌコロのことらしい。その穂が、子犬のしっぽに似ているから付いた名前だそうな。ネコジャラシとも言う。ネコの前で、エノコログサの穂を動かすとネコがじゃれる。
 犬と猫と人間の暮らし。
 小さき者たち、小さき命。