日本語教室忘年会

 今朝は雪が積もっていた。


 ルアンたち四人がやってきたのは、パーティが始まって15分ほどしてからだった。日本語教室の忘年会を今年もやってほしいと、中国人のお母さんから希望が出たことがきっかけで、忘年会を催すこととなり、先日の日曜日が忘年会だった。三人の中国人のお母さんと四人の幼い子どもたちは、時間どおりやってきた。ルアンたちベトナム人の実習生はやっぱり残業で遅れた。
 忘年会の開催は12月に入ってから決まった。ベトナム人の実習生は残業が多く、年中無休だ。忘年会を企画しても、彼らが参加できるかどうか分からない。そういう事情から最初はパーティの企画はしていなかった。要望が出たことで6人のスタッフで相談して実施することにしようとなった。実施するからには実習生たちには参加してほしい。ぼくは実習生の働く会社の社長に、忘年会のお知らせと参加できるように配慮してほしいという手紙を書いて、忘年会の数日前に会社に持っていった。社長はいなかったので、実習生の係りの人に手紙を渡し、口頭でお願いした。参加するかしないかは本人次第、その日仕事を入れないという配慮はできない、仕事が入るかどうかは今のところ分からない、社長には伝えておきます、そう係の人は言った。
 夕方6時から始まった親睦パーティ、初めはAさんがベビーカーに乗せて連れてきた赤ちゃんにみんな引きつけられた。やっと歩き始めたばかり、首をかしげてヨチヨチ歩いてニッコリ笑う。これだけで大人を魅了する。スタッフの顔がほころびっぱなし。
 次に注目がいったのは、2人の男の幼児と小学一年生の女の子。女の子は今学校ではやっているというけん玉をもってきて、「もしもしかめよ」と歌いながら拍子をとり、上手に玉を大小の受け皿に交互に入れる。
 スタッフが準備した料理と、お母さんたちが差し入れてくれたパオズを食べながら、団らんする。
 三番目の注目は、ルアンの演奏だ。ギターを弾きながら「翼をください」の歌唱、予定していた出し物だ。彼は肩に担いで持って来たギターをケースから取り出した。
「よおー、モーリスじゃないか。へえ、買ったのかい?」
 ルアンの隣に座ったぼくが尋ねた。モーリスは松本の製作所の楽器だ。ルアンは、リサイクルの店で、1万円で買ったという。
「それにしては、いいギターだよ。新品みたいだよ。」
 ルアンは来年夏前に、3年の実習を終えてベトナムに帰ることになっている。ギターはベトナムに持って帰る。ルアンがギターを練習し始めたのは、そのギターを購入してからだ。なんでも父親が弾いているのを見たことがあったがルアンは弾いたことがない。興味関心はもっていた。楽器が手に入ったことで、インターネットを使って独学を始め、演奏できるようになった。その第一曲が「翼をください」だった。ベトナム青年の実習はキノコの栽培だから、年中休みなしだ。そのわずかな暇に、独学してきた。彼はノートパソコンも持ってきていた。新しい、アメリカ製のデル、9万円だったというからびっくりポンだ。
「そんな高価なものよく買ったなあ、私のより上等だよ。」
 ルアンは、いろんな好きな歌をパソコンにダウンロードしていた。
 ルアンは、はにかむことなくギターを弾き始めた。
「よう、本格的だよ」
 前奏につづけて静かに歌いだした。子どもたちも演奏に集中する。「この大空に 翼をひろげ 飛んでいきたいよ 悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ 行きたい―」そこから声が大きくなった。
 演奏が終わると、拍手喝さい。称賛の声が飛び交う。
「じゃあ、みんなで『翼をください』を歌いましょう。」
 ぼくは準備してきていた歌詞のプリントを全員に配る。一志さんがCDを用意してくれていたのでラジカセで歌を流し、みんなで2回歌った。
 ひとしきり歌で盛り上がったところで、小学一年生のけん玉が登場。
「みんなもやってみようよ」
 その声で、ベトナム青年たちが、自分も自分もと交替でけん玉を借り、チャレンジし始めた。女の子は師匠になった。四人は競うように、師匠に近づこうとけん玉に集中する。難しい。大人たちは笑い転げ、声援を送る。コンちゃんが、ひざの屈伸を取り入れるとうまくいくことを発見、「もしもしかめよ」の一番の終わり近くまで連続して玉を入れることができるようになった。コンちゃんの顔は少年のような喜びにあふれる。そのコンを超えたのが、今年の夏に日本にきたドゥン君。「もしもしかめよ」の2番目まで連続技が続いた。ルアンが、
「ドゥンは、体育大学を出ているから」
と言った。なあるほど、それで運動神経が発達してるんだ。
 中国人のお母さんが、もっていたスマホでけん玉の値段を調べて、
「はい、こんな値段だよ」
 ベトナム青年たち、けん玉を買って練習し、ベトナムに帰って広げたらどう?
「けん玉名人になったら、ベトナムでテレビに出れるよ」
 それはおもしろいぞ。やったらどうだー。
 かくして交歓パーティ、笑い転げて終わった。