ベトナム実習生、野菜を植える

 先日ベトナム青年のルアン君の寮の空き地に、トマトを植えてきたが、野菜の苗をもっと植えるといいな、と思って、ポット苗をいろいろ準備した。トウモロコシ、ミニトマト、シャンサイ、ゴーヤ、カボチャ、これらの苗を実習生の寮に持って行ってやろうと、日曜日の日本語教室にやってきた3人に提案した。
 「野菜の苗、持っていきますよ。もっと植えませんか」
 トー君とハップ君は、小さな野菜苗を、キノコ農場の片隅の空き地に植えたというから、
 「社長に話しましたか?」
と問うと、社長の許可は取ったという。では、その畑とやらも見てみたい。
 何時ごろ、どこへ野菜苗を持っていけばいい?
 「朝は何時におきるの?」
 ルアン君は、「6時半」と言った。
 「それから朝食を食べて7時に会社へ行く」
 その30分間に寮へ持って行くのは、ぼくの朝のウォーキングパトロールと重なってしまい、ちょっと無理だ。月曜日は仕事が何時ごろに終わるか聞くと、夜7時ごろだと彼らは言う。それから食事になる。その時間も難しい。昼休みはどうかなと思ったが、それもこちらの食事時間になってしまう。苗を届け畑の状態を見るだけのことだが、実習生の余裕のない労働時間では、なかなか難しい。どうしたらいいかなあ、と言っていたら、
 「3時から3時20分まで、休憩ですよ」
と、思いがけず休憩タイムがあることを教えてくれた。じゃ、その時間に持っていくよ、ということで、黒板にチョークで地図を書いて、会社と寮の位置を聞いた。だいたいの位置がつかめた。

 月曜日、3時前に苗15本と発酵鶏糞一袋を車に積んで出かけた。途中小学校低学年の子らが、体の割りに大きなランドセルを背負って三々五々下校していく。ふざけながら帰っていく子もいて、なかなかかわいい。
 両側がトマト畑の間を行き、大体この辺りと思われる建物のところに来ると、
 「センセイ」
と声がした。見ると、青い作業着と帽子をかぶった数人のベトナム実習生が建物の際に座っている。声をかけてきたのは、ハップ君だった。
車から降りると実習生が集まってきた。車に積んでいた苗を見たルアン君は、
 「モロコシ、シャンサイ、ゴーヤ‥‥」
と指でさして全部の苗を言い当てた。
 彼らに招かれて、寮の二階に上がった。建物はプレハブだ。夏は暑く、冬は寒さがしみとおりそうに感じたが、エアコンは付いていた。一人の実習生がコップに、ペットボトルの飲み物を入れてくれた。
 「センセイ、これベトナムのコーヒー、おいしいよ」
 両手につかんで持ってきてくれたのはコーヒーの小袋。どうぞどうぞと言う。一袋分を入れて熱湯をコップの三分の一ほど注ぐと、一杯のコーヒー飲料になると言う。お湯はここまで、とコップの下から数センチのところを何度も指し示した。そんなにお湯が少なくていいのかなと思う。 「持って帰って飲んでください」
 どうぞどうぞと強く言うから、ありがたく頂戴した。ルアン君が、
 「私のおじいさん、コーヒーつくっている」
と言った。ベトナム南部ではコーヒー豆の栽培が盛んなようだ。
 ハップ君が畑に案内するというので、すぐ近くの駐車場にもなっている空き地に行ってみた。草が生えている一角に10坪ほど、彼らの畑があった。土は畑の土ではなく、荒地だった。カボチャ、トマトが数本、狭い間隔で窮屈な植え方をしている。これじゃ収穫もおぼつかない。やつれた苗だ。
 「くっつきすぎだよ。もっと間を開けたほうがいいよ」
 身振り手振りで伝えた。
 「あ、もう時間」
 ハップ君は急いで走って帰っていった。
 家に帰って、コーヒーをいただいた。甘くておいしかった。ベトナムの味だ。