種に見る日本


 遅霜の心配がなくなり、昼間は夏日になる日が多くなった。野菜の種まきや苗の植え付けが一度にやってきて、いそがしい。
トマト、シシトウ、ピーマン、トウモロコシ、ナス、キュウリ、ルッコラ、ササゲ、ニンジン、コマツナ、ゴーヤ‥‥と植えて、まだこれからいくつかある。
 買ってきた種袋を見ると、驚く。延々と続いてきた日本の農家は、自分の育てた作物から種をとり、大切に保存して次の季節に備えた。種をとらなければ、次の年に作物はできない。生きる糧がなくなる。
 ところが、今は多くの農家が種を店から買ってくる。
 ぼくは、これから播く種袋、既に播いた種袋、今播いたばかりの種袋を見てみた。種苗会社の販売する種袋に生産国の名前が書いてある。

  ゴーヤ‥‥中国
  ルッコラ‥‥デンマーク
  アスパラ‥‥アメリ
  ホウレンソウ‥‥デンマークアメリ
  ニンジン‥‥オーストラリア、デンマーク
  スナックエンドウ‥‥中国
  キャベツ‥‥イタリア、オーストラリア
  チンゲンサイ‥‥イタリア
  タマネギ‥‥フランス、イタリア
  白菜‥‥アメリ
  大根‥‥アメリカ、イタリア
  インゲン‥‥アメリ
  リーフレタス‥‥アメリ
  トウモロコシ‥‥アメリ
  トマト‥‥中国
  ミニトマト‥‥タイ
  赤タマネギ‥‥アルゼンチン
  キュウリ‥‥中国、タイ
  ウマイナ‥‥アメリ
  春菊‥‥ニュージーランド
  コマツナ‥‥中国、オーストラリア、イタリア
 ざっとこんな実態だ。日本の固有名詞のついたものはどうか。
  京水菜‥‥イタリア
  松本一本ネギ‥‥チリ
  野沢菜‥‥長野、アメリ
  日本ホウレンソウ‥‥デンマーク
 南信が産地の霜ササゲは北海道だった。これで分かるように日本で採取された種はきわめて少ない。この実態も日本の農の一面を現している。自家栽培の種をとる余裕がないからなのか、種採りが採算に合わないからなのだろうか。イモ類などは、ほぼ全部国産だ。
 ポット苗で買ってきたものは、種がどこで生産されたのか分からない。