政治家の言葉

写真:烏川渓谷緑地の事務所でみた鳥の巣

 官房長官が、「辺野古の基地建設を粛々と進めるだけだ」と言った。
沖縄県知事は、沖縄県民の意思をふみにじる、上から目線の言葉だと怒った。
 官房長官と知事が対話した。
 「粛々はもう使わない」
官房長官は言った。


「粛々と」
「粛々と」
 政治家たちはよく使う。
 厳粛に、静かに、ひたすら歩を進める、
 この言葉を政治家が使えば、
民衆の中から聞こえる声に耳を傾けず、
問答無用。


 「鞭声粛粛 夜河をわたる
 暁に見る 千兵の大牙を擁するを」
 頼山陽が吟じた。
 上杉謙信軍は鞭音(むちおと)も立てずひっそりと、
 夜の千曲川を渡り川中島の敵陣を攻めた。
 武田信玄軍は明け方霧の晴れ間に上杉の大軍を見た。


 政治家たちがよく使う。
 「いかがなものか」
 論理を述べるよりも、それはダメですと、柔らかに否定する。
 これをもって論理封殺。


 「しっかりと」は首相がよく使う。
 「きちんと」は副総理がよく使う。
 前を向いて、しっかりと、きちんとやっていきます。


 政治家の中で
 「喫緊」という言葉がはやり、今は「直近」になった。
 「緊急の課題」と言うと、即行動に移さねばならないが、「直近」なら問題提起、クローズアップだ。


 新聞雑誌に、「危うい」とある。
 「安保法制の危うさ」
 「民主主義が危うい」
 「危うい」という言葉が目に付く。
 「危うい」
 「危ない」
 「危険だ」
 少しずつ、言葉にこもる心がちがう。


 「危うい」は軟化した言い方に聞こえる。
 主張にほんの少し弱さが出る。
 当たり障りのない言い方になる。
 ぼくは、またかと思う。
 そこは、直接的に「危険だ」と言えばいいではないか。

 言葉には勢いや静けさや、
優しさや迷いがある。
 言葉には心がある。
 胸から発する言葉を大事にしたい。