種まき

 ホウレンソウの種を播いた。堆肥と苦土石灰を入れて畝立てし、さらに木灰を入れ、表土に畝間の土をかぶせた。堆肥と苦土石灰を入れたばかりではすぐ種を播かないほうがいいが、しばらく寝かせる余裕がない。すぐに播きたい。そこで別の土を表土に1、2センチほど載せる。ぼくの独自方法だ。種は一晩水に漬けておいた。種の水を切っても、まだ塗れている。小さな丸い種を、親指と人差し指でつまむと、数粒をつまんでしまう。それを畝に支柱を置いてへこませた溝に入れる。ところが塗れている種は指にくっつきやすい。指にくっついた種を2センチほどの幅の溝に入れようとしても指から離れないから、指を振ることになる。そうすると種の位置がずれる。むずかしい。そこで容器に入れた種を左の指でつまみ取り、それを右手の指に移すと、水分が少し取れて指から離れやすくなる。
 畑にしゃがんで種まきしているときの、安らかな気分はいいなあ。カラスが群れて飛ぶ。やかましく鳴き交わしながら群舞している。畑のなかにカラスの食べ残したクルミが落ちている。表皮は取れて、なかの薄茶色の硬い実を食べようとして割れなかったものが、クルミの木の周囲にいくつか転がっている。それを拾って持って帰ったら、いつのまにか30個ほどになった。
 もうひとつ、種まきがある。ベトナムの青年からもらった種。袋にベトナム語でいろいろ説明が書かれて、写真も載っている。小松菜のようだなあ、まずは播いてみようと思い、一箇所だけ英語のところがあるのに気がつかなかった。袋から種を取り出すと、小さな丸い粒は白菜に似ている。筋蒔きしてから薄く土をかぶせ、材木切れで押さえつけた。  たっぷり水撒きしてマルチをした。家に帰って調べたら、袋の説明文の最初に、英語で「リーフ マスタード」とある。マスタードは辞書を調べたら「からし菜」だった。ネットで調べたら、種まきは春と秋の2回あり、秋はちょうど今。さて、この安曇野の気温でどれだけ育つか。霜と雪が来るまでに、どれだけ大きくなるか。食べられるようになれば、ベトナム青年たちに持っていってやれる。畑まで採りにおいで、というのもいいなあ。
 緑のカーテンにまだゴーヤがたくさん残っている。大小あわせて15個ほどとり、夕方6時半、サツマイモも加えて、ベトナム青年の寮にもっていった。もう辺りは真っ暗だ。出てきた二人は上半身裸、あわてて上着を取りにいった。二人はいま食事の準備中とかで、ほかの青年はスーパーへ買い物に行っていると言う。
 「サツマイモは、ふかし芋にするといいよ」
と言うと、「ふかし芋」が分からない。辞書を引くというから、「蒸かす」で調べさせた。電子辞書にその言葉がでた。
 「ああ、わかった」
と二人。
 「どうぞ、食べてください」
 二人は、上に上がってと何度も言ったが、こちらも食事だから帰ってきた。