Jアラートが鳴り響いた

 朝のランとの散歩で、半年ぶりぐらいになるか、Hさんに会った。黄色く色付いてきた稲が頭を垂れている。Hさんのつくっている畑には、里芋、秋ジャガ、キウリ、松本一本ネギ、ダイコン、ササゲなどいろんな作物が育っていた。その作物のどれもに、Hさんの生きた知識が反映していて立ち話に花が咲く。
 圃場整備の工事で、一枚の田圃は二倍か三倍の大きさに広げられ、大型機械が入れて効率よく作業ができるようになった。ところが高低差のある畔のノリの部分は45度の傾斜があり、そこに生える草を刈らずに除草剤を使って枯死させると、土がゆるんでそこから崩れたり水漏れしたりする。これがやっかい。さらに工事で持ち込んだ客土に、クサネムの種が入っていて、それが広がると収穫したコメから除去が難しくなる。この工事も疑問だらけだ。


「ネギ、食べてるかい。」
「ネギねえ。冬は太ネギを食べるけれど、今ごろはほとんど食べませんねえ。」
「ネギは毎日食べたらいいよ。ネギは頭にいいよ。頭を働かせる人はネギを食べるといいよ。サルが来るとね、ネギを持っていくだよ。サルも考える動物だからね。人間と同じでね、よく知っている。だからネギを食べるだ。頭脳をよくするだ。」
「数日前、大根の種を播いたんですよ。今年の春までと期限が書いてある種袋の種を一列、四年前までの期限が書いてある種を一列。そうすると今年の春までと書かれた発芽期限の種は三日目にもう芽を出した。ところが四年前までの種はまったく芽を出さないです。」
「二日で芽を出すという方法もあるよ。手拭いで作った布袋に種を入れて、ズボンのポケットに入れとくだ。それで一週間ほどして、その種を播いたら、二日で芽を出した。種に傷がついて、そこから水の浸透がよくなって、早く発芽したんだね。」
「古い種は乾燥して水分が抜けてしまうのかな。」
 秋ジャガは、Hさん、8月1日に種イモを植えたという。十一月に収穫する。冬の極寒をどう保存するのか、それを聞きそびれた。


 数日前、ランを連れてウォーキングしていたら午前六時前、突然天から異様な音と声が降ってきた。サイレンでもない、変な音が流れて、
北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物か地下に避難してください。」
何?何? この晴れた空にミサイル? 何それ。ミサイルがこの頭上を通過する? 落ちてくる? 頑丈な建物って、どこにあんねん、地下って、何やねん。防空壕か。そんなもん、どこにあんねん。変な音声は、あちこちに立てられている電柱の先につけられたスピーカーから出ている。
 戦争末期、大阪大空襲が頭によみがえった。灯火管制の夜中、サイレンが鳴り響いた。警戒警報の鳴り方と空襲警報の鳴り方とは違う。空襲警報が鳴ると、防空壕に入ることになっていたけれど、ぼくは家を出て、前の通りから北の空を見た。赤い炎が天を焦がしていた。炎は天空の半分ほどに上っていきつつあった。幸いぼくの地区は焼夷弾をまぬかれ、家は助かった。


 ミサイルが落ちてきたら、どこに隠れようが、助からんよ。それが本当なら、手の打ちようは無いよ。人心を動揺させ、撹乱し、戦争準備に駆り立てる放送か。あの時代の再来か。
 ぼくはランを連れて、のんびり坂道を上っていった。鳥の群れが飛んでいる。道祖神のある辻に来た。「西穂高村警防団」と彫られた標識の石が立っている。そのとき、またスピーカーから音が出た。あちこちのスピーカーからここまでの距離が少しずれているから、複数の音声がずれて重なって、ぼわんぼわんと、何を言っているのか分からない。以前は非常用無線機が各戸につけられていた。それが撤去されて、大音声のスピーカーに切り替わったのは、二年前だったかな。このスピーカーに替わって、家の中ではよく聞こえなくなった。外に出ると場所によって、このように音声が音声を妨害して、意味が分からなくなる。
 
 なんだかきな臭くなってきた。戦争の準備を急いでいるようだ。日本も世界も、
 「オオカミが来るぞ、オオカミが来るぞ」