安曇野市議会議員の政務活動費をめぐる問題<住民監査請求の結末>



 1月8日、監査委員会に意見陳述をした住民監査請求の監査結果が先般公表された。
 政務活動費を使い、和歌山・大阪・神戸と旅行した安曇野市議会二会派の視察研修旅行の大半は観光旅行であるが、「政務活動費が過大に交付されているものと認められた分については返還を求めるよう必要な措置を市長に勧告する」、というのが結論だった。
 「安曇野市を考える市民ネットワーク」の意見陳述では、これはほとんど視察研修ではない、という主張を資料をもとに述べた。視察研修は、一般の旅行業者のパックツアーを利用するものであったから、企画コースに入っていた和歌山市で開催されていた「地旅博覧会」視察および「国内観光活性化フォーラム」のシンポジウムに参加することは、時間的にはきわめて短時間になり、それではほとんど研修にならず、逆にたっぷり時間がとられたのは神戸ハーパーランド港ディナークルーズと大阪のなんばグランド花月などの遊興であったことから、視察研修ではないという疑念を主にぼくは述べた。さらに後に提出された領収書には、乗ってもいないJR乗車代金まで記載されていたことの疑惑も述べた。これは観光旅行そのものではないか、「安曇野市を考える市民ネットワーク」の三人はそのからくりを陳述したのだった。
 それを受けて監査委員会は調査し、報告でこう述べた。
 「安曇野市の観光振興施策を検討する際の参考にするための調査研究活動と評価することができるが、一般の市民感覚からは『市政の課題及び住民の意思を把握し市政に反映させるために会派が行う住民福祉の増進を図るために必要な活動』と評価することはできない。」
 「議員の政治活動、議員活動、個人活動の区別を判断する難しさもあり、監査委員も熟慮を重ねて今回の判断に達した次第であるが、マニュァルの見直しを行い、それに従った運用がなされているかについて議長(議会事務局) のチェック機能を高めることが必要である。また、なにより会派議員各位は政務活動の内容について市民に十分な説明責任を果たせるよう、政務活動費のより適切な使用を意識されることを切望するものである。」
 「議長(議会事務局) のチェック機能」とあるが、議長その人は、政務活動費をつかってこの旅行を企画した会派のトップである。
 監査委員会の監査はこれで終了した。
 しかし根源的なことは何も問われていないし、究明されていない。議員たちの体質は、旧態依然であり、どうしてこういうことがまかりとおってきたのか。何をするために議員になったのか。このことに対して議員はどう考えているのか。何も分からない。監査報告の後にも前にも、議会は議会として動かなかった。
 このことを最初に告発したのは、市民の矢沢たけひこ氏だった。前回の安曇野市議会議員選挙で次点落選した若い市民である。そして矢沢氏は、別途矢沢氏独自に住民監査請求を出された。同じ問題意識で、二つの監査請求の提出になったのだった。一昨年、最年少で市議会議員選挙に初めて立候補し、落選した後も、市議会と行政を糺していこうと行動する市民・矢沢氏、その意識と情熱が議会と会派の実態を浮かび上がらせた。
 住民監査請求の提出後、問題の会派から一人の議員が脱会した。その旅行に参加した人だった。ぼくは直接会って、議会の実態について話し合った。彼は、老老介護をしている親のもとに帰ってきて、初めて現議員になった。これまでの学問の世界を離れて議員になり一年余、議会と行政と市民の実態をその眼で見てこられた。
 「私は安曇野で父をみとりました。老母とともに、必死になって病気のの父のために多くの療養介護施設を探しまわりましたが、なかなか受け入れていただけない厳しい現実を体験し、私は、待機高齢者ゼロという大きな目標・願いを強く持つようになりました。」
 議員になった彼の原点はそこにあった。その彼が、この旅行に参加した。よく考えずに、お付き合いで、多分会派という慣れ合い集団に同調したのだと思う。そのことを彼は悔いている。その反省が退会という決定になったのだろう。その後監査請求が市民から出て、監査委員会が議員から事情聴取を行うことになった。彼は、その時にこの政務活動費の事実と問題点を洗いざらい話そうと思った。ところが、監査委員会は彼をスル―し、事情聴取をしなかった。そこで彼は自ら監査委員会へ赴いて、直接事実を述べたという。この監査委員会の動きにも何か思惑と何かの力が働いていそうだ。
 地方には古くからの土地の事情があり、人脈がある。古参議員はその人の出身地区の住民、とりわけ有力者とのつながりが強い。古参議員同士が会派をつくるのも、政治理念や思想とは無関係だ。たぶんに顔と顔、人間関係でつながる傾向がある。
 「何をするために、あなたは議員になったのですか」、
 「あなたは、どんな理想、ビジョンをもって、議員として生きているのですか」
 議員のみなさん、本音で語ってください。

 そして自らに問う。議員を選ぶ市民に問う。市民の意識はどうなんだと。議員を選び、議会という世界を支えている市民の意識が議員に反映しているのではないか。
 地方議会議員にも、国会議員にも、問いかけたい。
「何をするために、あなたはそこにいるのですか」。
 反知性主義衆愚政治が進行しているという。深刻な事態が起こっているという。そういう指摘が、この国の政治に関連して出てきている。