大型パチンコ店出店<安曇野市議会で起きていること>


安曇野市議会で>
 9月16日、増田望三郎議員は安曇野市議会で市長に次のような主旨の質問をした。
 「市長が初めて大型パチンコ店の出店を知ったのは、本当に3月28日だったのですか。市長の支持者の方から聞いた話では、市長は昨年10月から知っていた、とのこと。事実はどうですか」
 この発言が紛糾の元になった。憤慨した市長は、“それは事実ではない、うわさを神聖な議会に持ち込むとは何事か、そういうことを言ったのは誰なのか具体的に名前を明らかにせよ”と反問権を行使して増田議員に迫った。増田議員は、“うわさではない、出店のことを調べていて市民から聞いた情報だ、その人の名は明らかにできない”と応えた。
その日の午後、本会議を中断して議会運営委員会が秘密会で開かれた。増田発言と市長の反問権行使を重大な問題だと感じた役員が招集をかけたのだった。
 翌17日、本会議の冒頭、市長が発言する。
 「増田議員はウソをついていると認識している」
 異常な発言である。市長が前日「神聖な議会で」と言いながら、そこで議員を「うそつき」と誹謗したのだ。
 9月18日、さらに市長は議会への申し入れを行なった。
 「増田望三郎議員の一般質問の中で、市政に対し疑念・疑惑を持たれるような内容の、市長の尊厳を著しく毀損される発言があった。このことは、二元代表制による議会という神聖な場所において、事実無根の極めて不適切な発言によるものである。現在、議会運営委員会を経て、議長・副議長が発言内容の確認をしており、増田議員からは、今会期中に対処するとの発言をいただいているが、市議会として真相の解明をされるよう強く申し入れる。」

<ことの発端>
 梓川の堤防沿い、安曇野の玄関口に、県下最大のパチンコ店ができる。駐車場台数は958台で、営業が始まれば約2000台の車が往来する。安曇野市はその建設を承認した。近くには保育園や小学校のスクールバス停もあり、通学路にもなっている。オープンしたらどういう事態が発生するか。地元から建設反対の声も起きている。
 環境・景観への影響、交通のトラブル・事故の懸念、パチンコ依存症が増えないか、依存による勤労意欲の低下とか借金・生活破綻という問題なども、各地で起きている。
 安曇野市はこの建設計画を今年の3月に知ったという。そして9月に市は開発申請を承認した。この速さはなんだろう。
 増田望三郎議員は考えた。
 「市長は田園産業都市をうたっているが、田園遊興都市になってしまいそうだ。ギャンブル依存症になる人も増えるかもしれない。業者は名古屋の大手パチンコ店なので、利益は県外に流れていく。パチンコ屋が出店する地域は都市計画法では準工業地域になっており、土地利用条例では遊技場などの出店が認められている。土地利用条例の中には住民に対し説明会の開催が定められているが、住民が反対したとしても、開発事業が止められるというふうには定められていない。市長も議会の場で『残念ではあるが法的に止められない』と言っている。」
 9月1日、市長は開発申請を承認した。現地の住民や安曇野市民の意見は十分汲み取られることはなかった。住民、市民の意思をスルーして半年足らずで承認、いったいどうなっているのか。
 これが発端である。そして増田議員の議会での一般質問となった。

<「うわさ」、「うそ」という発言>
 市長は、「うわさ」を議場に持ち込んだと批判し、翌日「うそ」を言ったと批判した。
 「うわさ」というのは根拠のない世間の風説であり、「うそ」は真実ではない意図的につくられた虚偽である。では、増田議員の聞いたことは世間に流れている「うわさ」だったのか。彼はある特定の人からその話を聞いたと言っている。
 翌日市長は「増田はうそをついている」と断定した。市長からすれば、身に覚えがないから「うそ」だと言う。身に覚えがないなら「身に覚えがない」と主張すべきである。どうして「うそ」だと言えるのか。根拠なしの断定発言は逆に増田議員に対する名誉毀損ではないか、市民の提供した情報にもとづく発言を「うわさ」であるとか「うそ」であるとかと非難するなら、市民を侮辱することにもなる。
 どちらが真実でどちらが虚偽か。情報提供者が自ら明らかにすれば、ことは解決するが、プライバシーの保護を望んでいるならば名前を明らかにすることはできない。
 議会の議員多数は市長の主張に同調しているように見える。市が大型パチンコ店の出店を承認したことをどう評価し、そのことによって何が起こるか、という重大問題はどこかへ飛び、増田発言と市長の反撃という構図にのみとらわれている。市議会はこれからどのような将来展望とビジョンをもって市民の安寧と幸福に資する議会運営をやろうとしているのか。議会を傍聴して感じる。

<問題の本質>
 増田議員は、安曇野の環境を守りたい、市民の生活、教育・文化を向上させたいと願って発言した。市長の名誉を毀損することを目的にしてはいない。
 市長も議会も、「安曇野の未来の子どもたちのために、市民の暮らしのために」、という原点を見つめるべきではないか。大型パチンコ店を認めないというところに立つことはできないのか。
 パチンコによる問題はいろいろ起こっている。パチンコ店の客は全国的に減少しているという。安曇野市松本市にはすでに何店ものパチンコ店があるが、そこへ県下一の大型店をもってきて、安曇野の未来はいったいどうなるか。議会はそれこそ集中して、パチンコという存在について調査研究すべきではないか。
 別件では、市民から、政務活動費の執行について公開質問も行われている。市民の矢沢たけひこ氏は、政務活動費で観光旅行をしたという調査に基づく告発を行った。この問題も議会は取り上げたのだろうか。

 イギリスでスコットランド独立運動が起こり、住民投票を行った。決着がついて独立はしないとなった。テレビで在日のスコットランド人が言っていた。。
 「民主主義は、人びとの声を拾う」
 この言葉はぼくの心にずしんと響いた。住民の85パーセントの投票率で、結果が出た。考えの違いをぶつけあい、青年から老人まで一人ひとりの声を聞いて、方向が出された。
 安曇野の市議会、行政が、「市民の声を拾う」という謙虚さに立つことをこいねがう。
 市民の声を聞くということは現場に出て、耳に痛い内容にも耳を傾けることである。「うわさ」のなかにも、市民の願いがこもっている。市民を忘れた議会、行政にならないように、そこに立ち現れている市民の声に耳を傾けるべきだ。