わが安曇野ビジョン<1> 歩道と自転車道をつくろう

 安曇野市には「市民憲章」が制定されている。

 「安曇野市は、北アルプスの麓に広がり、美しい自然や豊かな歴史・文化に恵まれたまちです。
 わたしたちは、ここに生きる幸せと誇りをもって、お互いに尊重し合い、より住みよいまちをつくるために、この憲章を定めます。
一、自然を愛し、水と緑豊かなまちをつくります
一、学ぶ心を育て、文化のかおるまちをつくります
一、思いやりを大切にし、健康であたたかいまちをつくります
一、働くことを喜び、活力のあるまちをつくります
一、支えあいの輪を広げ、安全で安心なまちをつくります

 これは、「こういうコミュニティを共につくろう」という未来ビジョンである。今はまだそうなっていないから、これから創ろうと呼びかけ、共通認識するためのものだ。では、市民はこういうコミュニティをめざして、意識的に共に創る営みを行なっているか。行政、議会は、先導的役割を果たし、施策を練っているか。ぼくの目に映る現実は、「停滞」「渾沌」「劣化」。
 ぼくは、脚で歩き、自転車で走り、軽のマニュアル貨物車に乗って、安曇野中を観察してきたが、この憲章は、つくづく額縁に飾られた絵のようなものだと思う。
 広域農道沿いの看板・のぼりの数は、4年前、三郷野沢交差点から穂高富田交差点までの看板・のぼりを調べたときよりも増えている。確か環境条例で規制がなされていると思うのだが、いっこうに変らず逆にひどくなっている。野の道に入ると、畑のなかの交差点にも、交通安全ののぼりが風にはためいている。スピードを落とすようにのぼりに書いてあっても、歩いているぼくの肩をかすめて徐行しない車が走り去っていく。のぼりの効能はほとんど感じられない。予算があるから立てているのだろう。これが逆に景観を壊している。
 車道の車は増え、歩道も自転車道も極端に貧弱で中途半端だ。

 まずはビジョンが必要だ。ビジョンを具体化するにはプランが必要だ。具体的ビジョンを画くには、安曇野市の現状がどうなっているかをつぶさに知らねばならない。

 デンマークに住み、自転車で旅をして記録を書いたデザイン・ジャーナリストの福田成美が、
 「コペンハーゲンコムーネ(市にあたる)の中を走る国道、地方道などの公道すべてに自転車道が敷設されるまで、あと12キロメートル」
と書いてから12年がたつから、もう100パーセント完成されていることだろう。当時、コペンハーゲンの通勤の足として自転車は三分の一の人が利用していた。
 「気軽に自転車に乗れるのは、歩道と並んで敷設された自転車道デンマーク全土に用意されているからである。この自転車道のおかげで、自動車や歩行者と接触する危険性がひじょうに少なくなっている。」
 「1993年にはデンマーク全土に十本の国定自転車旅行ルートが開かれた。自転車ルートをたどっていくと、海岸、湖、フィヨルドなどが現れ、自然のなかでテントを張って寝ることができるポイントがいくつもある」
 「コペンハーゲンにはデポジット式の貸自転車がある。特別にデザインされた貸自転車が市内120箇所の専用駐車場に用意されている。」


 朝日新聞の特別版GLOBEの9月7日の記事が、「自転車にのって」を特集している。そこに、オランダの最近の事情が載っている。
 アムステルダムは自転車交通の先進都市で、半径10キロほどの市内に約500キロに及ぶ自転車道が縦横無尽に広がっている。そこでは、自動車や歩行者を心配することはない。交差点の信号機も自転車用がある。
インターネットの「コペンハーゲンナイズ」というウェブサイドに「自転車にやさしい都市」が載っている。世界150都市の実態が、13の評価項目によってランク付けされ公表されている。それによると、2013年のランキングでは、オランダのアムステルダムがトップになっている。車道や歩道と分離した自転車道の長さ、駐輪場の充実、自転車を都市交通の主役と位置づける政治姿勢など10項目で最高得点を得た。アムステルダムの小学校ではマナーの講習を行い、オランダ全国の小学校の75パーセントが公道で実技試験を行なっている。
 「自転車にやさしい都市」の2位はコペンハーゲン、3位はオランダのユトレヒト、4位はスペインのセビリア、5位はフランスのボルドー。東京は10位。
 「コペンハーゲンナイズ」を運営するアンダーセンは、「前の東京オリンピックでは経済成長の象徴として首都高速が造られた。次の東京オリンピックでは、人にやさしい都市であるあかしとして、自転車道を拡充してほしい」と述べているという。
 日本では、自転車と歩行者の事故も増えている。警察庁によると、2003年には2276件だった事故が13年には2605件起こっている。2011年までの5年間に、自転車と歩行者との間で起きた死傷事故は1万4293件、最多発生場所は歩道で、4割を占める。


 さて、安曇野はどうだろう。車が増えている。歩道が完備していない。車道を自転車で走っている人がときどきあるが、危険極まりない。少しよろめけば車に接触する。歩道はいたるところで断絶する。自転車道と名づけられた道はゼロではないが、安曇野市になってから、まったく増えていない。そこを走る自転車の姿はない。

 【ビジョン1】 安曇野をもっと魅力ある、やさしいところにするには、合併した五つの地域を断絶なしでつなぐ安全で美しい歩道と自転車道をつくることである。並木を植え、田野や山、街を楽しめる道。そうしたものこそが「一つの安曇野市という意識」を涵養する。市民の生活に直接かかわるものこそが、人と人の心のつながりを生む。90億の新市庁舎建設予算は、こういうプランにそそぐべきであった。