サルナシの実

 学校へ行くと、ロッカーに、紙袋が入っていた。あれ、何だろう、袋を取り出してのぞいてみたら、メモが入っていた。今年もサルナシの実ができたからどうぞ、S先生のやわらかい文字だ。袋の中の紙箱にサルナシの実が見える。学校では科が違うために最近出会っていないにもかかわらず、S先生は、ちゃんと覚えていて、こうして秋の山の幸を贈って下さる。一昨年いただいたときは、その実で果実酒をつくった。サルナシをホワイトリカに漬けて熟成させると、きれいな黄金の酒になる。
 サルナシはマタタビ科のつる性の木で、フジのように大きく育つ。S先生は、伊那谷に住んでおられる。伊那谷は自然と文化の豊かなところで、木曽谷に比べ対照的に谷が広く明るい。S先生の家の庭には、つるを茂らせたサルナシの木があり、実をたくさんみのらせるのだとおっしゃる。
 ぼくが初めてサルナシのことを知ったのは、20年近くなるが奈良と三重の県境にある三峰山へ登ったときで、雲津川の源流をそまびとの幸弘さんと登る途中、サルナシの実を見つけて口にした。ネーミングは猿の梨、けれど実の大きさは2センチ余りの小粒で、熟すと柔らかい皮のなかからキウイのような味のする甘い実が果汁とともに口に広がる。
 一昨年つくり、去年熟成した黄金酒は、ときどき飲んでいるがまだたくさん残っている。今年いただいた実は、ジャムにしよう。桑の実ジャム、ナツメジャム、ブルーベリージャム、ブラックベリージャム、あんずジャム、それぞれの果実の味が異なっておいしい。そこにサルナシが加わる。キウイ風のジャムになるだろうか。
 S先生は、建築士の経験、金融関係の経験も含め、アメリカでの数年にわたる生活で英会話達者、そして教職へと多彩な人生を歩んでこられた。今はカウンセリングの研究と実践を積んでおられる。長野県の教育界では信州に生まれて信州で育ち、ここで教職につく人たちが多いが、いろんな土地で暮らし、教職以外の経験や多様な社会経験を経てきた人たちが長野県の教職に加わることは意義がある。しかしそういう新たな波はまだまだ乏しい。人事の多くは、地元の人脈によって占められているように思える。
 今日から4日間、「安曇野スタイル2014」が始まった。今年加盟しているのは安曇野全域121の会場、すなわちギャラリー、工房、アトリエ、店、古民家、宿など、さまざまな個人の実践が文化の華として公開されている。我が家は洋子が、「柿渋工房“邂”」をオープンし、柿渋染めの作品を出展している。「安曇野スタイル2014」に参加している人たちも長野に移り住んできた人たちが多い。
 ここ数日、ぼくも看板を作って、巌さんの家の前やわが家の前にに立てたり、準備に忙しかった。今日は48人も見にこられた。