サッカーのJリーグで、『ジャパニーズ オンリー』と書いた横断幕をサポーターが掲げて、問題になったことが以前あった。
コウさんとマア君、シンさんが会話している。
「あのチームは、次の試合、無観客試合という処分を受けた。観客ゼロにして試合をする。問題の横断幕は、『日本人以外はお断り、外国人は入れない』という意味だったわけで、偏狭な排外主義、差別主義だった」
「そのサポーターは愛国心のつもりなんかな。なんでそんな心の狭い考えをもつのやろ」
「そういう人が増えているとすれば危険よね。優秀な日本人選手は、どんどん海外のチームに入って活躍してるのにね。スペイン、イギリス、イタリア、ドイツ、ロシア、そういう国々で活躍している。そういう国では日本人お断りではないのにね。」
「日本の国技の大相撲なんか、すごいインターナショナルじゃないか。最初はハワイなどの出身力士が出てきて、それからモンゴル、ブルガリア、エストニア、今じゃエジプト出身の力士もいるからねえ。」
「大砂嵐か」
「日本人以外はお断りと言ってたら、白鵬のような力士は見られなかった」
「モンゴルの国では、人々は日本の大相撲の放送を見てるよね」
「アメリカの大リーグも日本人選手も含めていろんな国の選手が活躍している」
「じゃあ、どうして『ジャパニーズ オンリー』という行動が出てきたんだろう」
「日本人のなかの、ずーっと底流に隠れている意識が、顕在化してきたということかな」
「底流に隠れている意識って何?」
「『ジャパニーズ オンリー』って、誰を排除しているの?」
「最近のヘイトスピーチとも関係していると思う」
「在日韓国、朝鮮人への差別的憎悪表現をやっている連中」
「そこのところがよく分からない」
「韓国、朝鮮、中国との関係が悪化して、感情的に排外的になっているのかもしれないね」
「ヘイトスピーチのデモをしている在特会は、在日外国人の特権を許さないというんだが、特権ってあるんかね」
「日本社会に住んでいる在日の外国人は税金も納めているよ。けれど政治に参加する権利を認められていない、選挙権はない、在日韓国、朝鮮人の多くは日本の歴史が生み出した結果でもあるよ。日本人の多くはまともに日本の近現代史を勉強していないからなあ。在日韓国、朝鮮人は日本の社会に貢献もし、ほとんどの人は溶け込んでもいる」
「大阪では日本人と在日韓国、朝鮮人とは切っても切れないつながりがある。けれど微妙に差別意識は残っているんだね。特権なんてないよ」
「中国人を追い出せ、移民を追い出せ、というデモもしている連中は、民族の純潔を守るということなのか、『異物』を排除する、ナチに似ている」
「そういうことが起こっているとすれば、日本社会のなかに、このような動きを容認する空気があるということや」
「生活保護受給者を受けている人たちをも攻撃したり、水俣病患者が長い苦しい闘いによって獲得してきた補償を『優越的特権』と言ったり、ヒロシマの被爆者に対する補償を特権と言ったり、社会的弱者が標的にされているとすれば、大問題だよ」
「こういう動きは政治の体質と無縁ではないように思う」
「美しい日本、強い日本をつくるという、いかにもそのとおりと思わせるそのスローガンの裏に、排他主義がひそむ。挙句の果ては戦争のできる日本にするという政策や。日本の戦争責任まで自虐史観とか言って声高に攻撃する」
「そういう攻撃がおおっぴらに展開される社会になってきてしもうたのか」
「日本の戦後社会が脆弱であるとすれば、簡単にこの動きは加速するね」
「きなくさい」
「社会がどんどん壊れていく感じがする。民主主義が壊れていくという人もいる。壊れるような民主主義だったのだと言う人もいる」
「何より、ぎすぎすした、重苦しい空気が立ち込めてきているような気がするな」
「人間のつながり、精神が破壊されていくからやと思うよ」
「人間と人間との、あらゆる関係性が希薄になり断絶しつつあるとすれば、えらいことだ」
「けれど、それに対する動きもまたこれから出てくると思う。その芽生えもある。それが希望だね」
「社会が進歩するための条件とは何だろうね」
「それを考えねばならないね」