議会の会派と無所属議員

 集団がよい方向に向かうか、とんでもない方向に行くか、烏合の衆になるか、沈滞するか、それを決定づけるのは、集団の構成員にかかっている。集団に影響を与える人がいて、強力な指導性が集団を支配する方向に向かう場合もあるし、その逆に、一人ひとりが意欲的に自分の持ち味を発揮する民主的な方向に影響力を発揮する人もいる。
 一人の人が、集団に加わる。その人が入ることによって集団が変化し始める。そういう存在の意味を、安曇野市議会にも見ることができる。

 この8年間、安曇野市議会で、是々非々を貫き、徹底して市民のサイドから考えて行動してきた小林純子議員が振り返っている。
 議会内部で何が起こってきたのか、これまで一般市民はほとんど知らない。さらに小林議員も知らない政治の裏の裏があるだろう。

 小林純子議員は自身のブログで次のように述べている。(要旨)

 <6月に制定されたばかりの議会基本条例、第5条に、「議員は、議会活動を行うため会派を結成することができる」という条文がある。この条文に落ち着くまで、かなりの議論の紆余曲折があった。
 地方自治法には会派に関する規定はなく、「政務活動費は会派に交付する、1人でも会派とみなす」という記述がある。会派制のメリット・デメリットを考えると、議会の最高規範である議会基本条例に、会派の条項を位置付けることについては大きく意見が分かれたため、「会派を結成するものとする」ではなく、「結成することができる」(結成しなくてもよい)というゆるやかな表現になった。しかるに、「無所属議員は会派を組んでいないのだから議会運営委員会には入れない」というような不公平な扱いがなされるようならば、何のための議会基本条例かということになる。議員平等の原則に従って、会派代表者会には無所属議員の代表も参加させること、委員会人事等についても差別的な扱いをしないことを再確認し、会派結成について合意した。
 今回の選挙の結果、定数25人のうち新人が13人で現職を上回った。今回の議員懇談会は、4年前のそれとでは、雰囲気がまったく違った。4年前、会派制について協議した時には、2、3の先輩議員の声高な発言で有無を言わさぬ気配がその場を支配した。「モノが言えない雰囲気がありますね」と新人議員がつぶやいたのを思い出す。
 それに比べ今回は、「会派制といわれても今日初めて顔を合わせたところで、主義主張もわからない。すぐには会派を組むのは難しい」、「議員平等の原則から無所属だからといって阻害されるのはおかしい」など新人議員の発言が光っていた。議員懇談会というのは、議員の任期が10月23日からなので、「懇談会」という形になっている。>


【「会派制」の経過 2005年・2009年小林純子議員のブログから】
 (2005年、5町村が合併してできた初の安曇野市議会)

 <11月1日は会派届出の締め切り日。五一会(15名)、安政会(4名)、日本共産党安曇野市議団(4名)、平会(3名)の4会派が結成されたという。私は、当面は会派には属さず活動していくつもり。
 「会派」とは何ぞや? 明確な規定はない。「同じ意見・政策などを持つ議員の集まり」とでも言えようか。しかし現実には、会派制をとる議会では「各委員会の構成は、会派の規模に応じて割り当てる」、「会派で代表質問ができる。その時間配分に会派の人数が反映される」、「各会派間の意見の調整や連絡・協議等をする場として各派代表者会を設置する」など、多数派が有利になるような形になっており、会派に属さない議員は不利な立場に置かれる場合が多い。議会を構成している議員は、権力と権限を持ち、法的に対等・平等で、議会の中ではいかなる差別も受けないことになっているはずなのに、政策集団といいながら「各委員会の構成や役職などの調整」が主であるとするならば、おかしな話ではないか。
 議員懇談会では、「市議会」になったのだから当然「会派制」に、という雰囲気にまず違和感がある。旧5町村の議会には会派制は無かった。28人の新議員がどのような理念や政策を持っているのかも判らない。そんな急に会派が組めるわけないじゃないか。半年、1年と議員活動の積み重ねのなかで生まれてくるものではないか。
 最大会派となった「五一会」の打ち合わせ会に、お誘いがあったので出席してみた。しかし、考え方にかなりの幅があり、「会派拘束は当然。会派として賛成・反対が決まれば、全員一致でいかなければ会派とはいえない」という意見も少なからずあった。そして「現市政を支える」ことを強調される方が多かったことから、私は入会を見合わせる。
 私自身が考えている「会派」は、市民にとって良い政策の実現に向けて集まった集団であり、その政策実現・課題解決に向けて調査研究・勉強し、その解決の見通しがついたところで解散する。一人ひとりの議員の考えが尊重され、会派拘束といった数の論理で支配しないこと。「会派」を固定的なものとしてとらえず、必要に応じて臨機応変に組み直し、複数の会派への参加も自由にする、そんなことを考えている。これだと、「市長与党」などと呼ばれるような大会派が固定化する心配も無くなると思う。>

 (2009年 2期目安曇野市議会)

 <2期目28人の議員が決まった。11月6日、安曇野市議会第3回臨時会。
 議長、副議長の選挙や、常任委員会、特別委員会の委員の選任や委員長の選出などがが主な内容。追加議案で副市長、監査委員の選任と教育委員の任命があった。
 臨時会に先立って、議員懇談会があり、議長候補の声明が行われた。立候補者は2、3人あって、選挙になるだろうと思っていたが、ただ一人が声明を行い指名推選となった。おそらく会派間の事前調整があって、一人に絞られたか。事前調整というと聞こえはいいが、実態はポスト争いの駆け引き、取り引きに近いものと思われる。
 本会議では、筋書き通り指名推選で議長が選ばれ、2期目の安曇野市議会が正式にスタートした。
 議会全員協議会(全協)では、常任委員会や議会運営委員会の委員の選任等について、会派代表者会議で検討した素案を基に協議。ここで問題となったのが、議会運営委員会(議運)に無所属議員が入っていたこと。「会派の代表者で議運を構成することになっている。無所属議員が5人いるとはいえ、会派を組んでいないのだから議運に入れることはできない」という。
 私はもちろん反論した。「議員平等の原則」が大前提、先例や慣例によって無所属議員が差別的扱いを受けるようなことがあってはならないと訴えた。ほかにも「無所属とはいえ5人もの議員を無視してよりよい議会運営が出来るはずがない。無所属からも議運に1名入ってもらうべきだ」、「3人の会派が3つもあり、最大会派でも6人しかいない。それと比べれば無所属5人は大きな勢力だ。議運に入れないとか、無視するようなことはいけない」という良識的な意見が相次ぎ、議員平等の原則が通ると思っていたが、
 「議運に無所属議員1人を充てたのは、今日までに会派が結成される可能性があったからだ。会派を組まずに無所属のままでいるなら議運には入れない。」という声高な意見に流される形となる。
 5人の無所属議員は、「議運に入るためにカタチばかりの会派を組むわけにはいかない」ということを再確認。結果、無所属議員は議運から排除されることになった。
 「議員平等の原則」を盾に、徹底抗戦することも考えないではなかったが、状況が好転するとはとても思えなかった。
 会議後、ある新人議員から「モノが言えない雰囲気がありますね」と話しかけられたが、私も同じことを感じた。しかし、この「議会の空気」に圧されて黙ってしまうようでは、議員として働くことを放棄することになる。>

 そこにその人がいて、議会・行政をよりよき方向に進ませる、そして、そういう人たちを支える市民がいる。安曇野市は着実にそういう方向に進んでいると言えるようになるか。