野の花


有明の月が
西空に残っていた。
谷に着くと 月はもう常念山脈を越え、
朝日が稜線を染めている。
森と谷川の気を胸いっぱいに吸いこめば
朝のみそぎだ。


野の道を帰る。
朝露にぬれた草むらに吾亦紅(ワレモコウ)が咲いている。
吾も紅、これでも私は紅色ですよ、
名前が自己主張している。
自己主張しているわりには、花は地味でくすんだ赤色、
いつも、ひっそり遠慮がちに咲いている。
私を見落とさないでね、
この名前、花を愛でる人がつけてくれたんだね。
ワレモコウ、
吾木香という書き方もある。
私は木の香りがするよ。


コスモスが野のあちこちに花を咲かせている。
人の胸の高さまで側枝を伸ばして、
群がり咲く。
COSMOS、どうして「宇宙、世界」という名がついたのか知らない。
秋桜」という名もある。
そのものずばり、秋の桜の花だ。
COSMOSには、「調和、秩序」という意味もある。
風の吹くまま 風になびき
飛ばされた種は着地し そこで芽を出し、
太陽の光を受け雨にうるおい 
自由奔放に花をつける。
自由に咲きながら
天地に調和し
その名のとおり「宇宙」だ。


ソバ(蕎麦)の花が咲いている。
畑のキャンバス
白いふとんをかぶせたように。
稲田は黄色くなってきた。