クモの巣にかかったチョウ

 野沢菜の種を播いた。筋播き、点播きではなく、ばらまくとよいと、種袋の説明に書いてあるが、それでは偏りなく播くのが難しいと思ったから、指ですじを引いて、適当な間隔で一粒か二粒ずつ、播いていった。けれども、播いてから、播くすじが詰まりすぎていたなあ、野沢菜は大きく生長するからなあと、ちょっとうっかりしていた。大きく生長するから距離を離すことは分かっていたのに、考えに入ってこなかった。どうしようもない。
 大根の芽が出て本葉が数枚伸びてきている。点播きで、だいたい一点に三本芽が出ているから、間引いて家内に渡すとおひたしにしてくれる。これが軟らかくておいしい。小松菜は種を播いたばかりで、まだ芽が出ない。タマネギもまだ発芽しない。
 庭の茂みの中、ラズベリーハンゲショウの花の間に隠れて見えなかった彼岸花が四本咲いていた。大和の気候とは違うからか、信濃ではあまり増えない。
 ヤマボウシとブナの木の間に、クモが巣を張っていた。この巣に、大きな蝶がかかって、ばたばた翅を動かして脱出しようとしている。いったんからまったクモの糸は、なかなか強くて、チョウは逃げられない。アサギマダラではないか、助けなけりゃ、草の枯れ茎を拾い取ってとんでいった。クモの巣は、網状に円を描いて張ったのと、まったく自由にアトランダムにはったのと、二つが並んでいて、その後者の方に捕らえられていた。クモは、チョウのはばたきが強すぎてまだ近寄っていない。草の枯れ茎をチョウの周りにぐるぐる回して、チョウを押すと、クモの糸から離れたチョウは、まだ少し糸を体につけたまま、よたよたという感じで飛んでいって、隣のライラックのてっぺん近くに止まった。その間のわずかな時間に、チョウを観察すると、後ろ翅に青い色がある。アサギマダラかどうか、調べてみようと、インターネットで調べると、アサギマダラは、翅の外側の前翅は黒、後翅は褐色、とある。青い色はない。アサギマダラではなかった。では、なんというチョウだろうか。写真を調べていって、キアゲハではないかというのが結論、観察が不十分だったがどうもそのようだ。アサギマダラは、南西諸島や台湾への渡りをする。このもろそうな小さな体で、遠く海を越えていく。どこにそんな力が潜んでいるのだろうか。
 庭にフジバカマがある。まだ開花していないが、アサギマダラはフジバカマの花が好きで、吸蜜する。。
 庭にはクモの巣が多い。クモの巣天国。歩いていくと頭にひっかかるから、巣があると出来るだけ巣を壊さないで、よけて行く。クモも食べ物がほしい。彼らの邪魔はしたくない。

     コスモスや墓石に宙の一字あり
     
 街のなかに墓地があった。一つの墓石に「宙」の一字が彫られていた。「そら」と読むのだろうか。
 もうひとつ、「ありがとう」の五文字が刻まれた墓石があった。
 リーフレットを配っていて見つけた。

 我が家のコスモスが乱れ咲いている。乱れ咲いていて、調和している。「コスモス」は「秩序と調和とをもつ宇宙」のこと。「コスモス」の対義語は「カオス」、「カオス」は「混沌」。

      帰り来し我が家なりけり秋桜