応召
山之口 獏
こんな夜ふけに
誰が来て
ノックするのかと思ったが
これはいかにも
この世の姿
すっかり柿色になりすまして
すぐにたたねばならぬと言う
すぐにたたねばならぬと言う
この世の姿の
柿色である
おもえばそれはあたふたと
いつもの衣を脱ぎ捨てたか
あの世みたいににおっていた
お寺の人とは
見えないよ。
沖縄出身の詩人、山之口 獏(1903〜1963)。放浪と貧窮のなかで詩作を続けた。
「柿色」と書いたが、「カーキ色」のことである。「カーキ」はヒンディ語。黄色に薄茶色が交じった枯れ草色のことである。土の色にも似て保護色となる。兵隊の服装はこの色だった。
夜中にやってきた人は、その色の服を着ていた。兵隊服を着て、すぐに応召すると言うのだ。軍隊に入るのだ。彼は別れの挨拶に来たのだ。
彼は坊さんだった。お寺の住職だった。お寺さんにも召集令状が来て、軍隊に入らねばならない。いつもの袈裟を脱ぎ捨てて、やってきたお寺さん、この世の軍服に身を包んで、あたふたと別れの挨拶に来たその人の姿を見たとき、ああ、もうこの人も死地に赴くのかと思う。彼からあの世の死の匂いがした。死の覚悟か、死の恐怖か、仏の道にいた人も、殺生の最たる戦に狩り立てられたのだ。
戦争すれば、兵士が必要となる。
兵士が足りなければ、兵士を増やさねばならない。
十代であろうと五十台であろうと、兵士を作らねばならない。
若者よ、覚悟はいいか。