フクちゃんの冒険と適応力

 昨日夕方、4時過ぎにフクちゃんがやってきた。二回目の預かり。フクちゃんのママは小学校PTAのコーラスに出かけた。
 フクちゃんは、ママとあっさり別れて、家内に手を引かれて家に入り、もうそこに適応していた。夕方は教育テレビで子ども番組をやっている。番組はよくできていて、子どもを引き込み、子どもはその番組に没入してしまう。2歳児程度の知能というフクちゃんの集中力はたいしたものだ。
 テレビの後、食事。
 揚げたての鶏肉のカラ揚げ、フクちゃんのお皿にも5個ほど、キャベツの千切りの上にある。サラダも御飯も、フクちゃんらしい量だ。フクちゃんは背が低いから、椅子の上に座布団を置いて、その上に腰をおろしている。それでもフクちゃんの口からお皿までは近い。食べ始めたフクちゃん、最初のカラ揚げは熱かった。口に半分入れて半分をお皿にもどした。
 「熱い? フーフーしようか」
 家内が食べかけていたカラ揚げに息をフーフー吹きかけた。
 そこから始まったすごい集中力。まずは次々とカラ揚げを平らげ、続いてサラダ、そして味噌汁、御飯、キャベツと続いた。
 「おいしい?」
 家内が聞く。フクちゃんは家内の顔を見て、にんまり笑う。満足、満足。
 カラ揚げは一個だけ残して、見事な食事が終わった。
 食事が済むと、椅子遊び。居間には三つの椅子がある。一つは回転しない椅子、二つは脚の先に車のついた回転椅子。フクちゃんは回転しない椅子に座っていた。その椅子から家内の使っている回転椅子に乗り移ることを考えたらしい。いったん床に降りることをしないで、右手を伸ばして家内の回転椅子を引き寄せた。回転椅子はくるくる回るし、脚の車で移動もしやすい。その椅子を、お尻を乗せるところを手前にして、自分の座っている椅子にくっつけた。回転椅子はよく動き、不安定だ。そこへ今座っているところから腰を浮かせて、乗り移ろうというわけだ。これはちょっと危ないかもしれんぞ。ぼくはまだ食事が終わっていなかったが、いつでも飛び出せるように、フクちゃんの行動を見ていた。一瞬、ぼくはテーブルに眼を移し、フクちゃんに視線をもどした。なんと、フクちゃんは回転椅子の上にいた。わずかな間にフクちゃんは回転椅子に移動していた。忍者のような早業だ。どんな風に乗り移ったのだろう。ぼくは眼が離せなくなった。フクちゃんは次のチャレンジに移る。三つ目の椅子はぼくの使っている回転椅子だ。これは背もたれが長く、座ればぼくの頭のところまである。
 フクちゃんは、慎重に椅子を引き寄せる。フクちゃんは、回転椅子の性質が感覚的に分かっているように思えた。家内の椅子の上にいて、両手を伸ばしてもう一つのぼくの回転椅子に手を置いたとき、体重の掛け方によってはぼくの椅子は向こうへ転がっていく可能性がある。ところが、フクちゃんは、椅子の移動をまったく起こさないで、くるりんと魔法のように乗り移ってしまった。これはかなり高度な感覚的テクニックだ。
 つづいて、フクちゃんは床に降りて、椅子を両手でくるくる回転させる遊びを始めた。回転させた後、ぱっと両手で椅子を押した。ごろごろごろ、椅子は走っていって、壁にぶつかって止まった。これがおもしろい。何回も回転させ、がたがたがたと揺すってから、ぽーんと押す。楽しいねえ、この遊び、たまらないねえ。
 フクちゃんは、椅子渡りも椅子回転も、観察しながら行動している。頭の中で、ものの機能をつかんでいる。 
 フクちゃんの環境適応能力はすごい。そのままストレートな行動だ。これは適応を邪魔する観念や感情に左右されないためかもしれない。
 午後7時半、ママが迎えに来た。
 フクちゃん、家内におんぶしてもらって、ママの車に乗った。田んぼでカエルが鳴いている。バイバイ、フクちゃん、バイバイ。